メイシンの寝室の外、そのドアのすぐ横で、ジェレミーは壁にもたれて二人の様子を感知していた。
もう逃げるなよ、か。
メイシンの、愛する者を引き寄せる「強さ」を、彼は素直に敬服する。
アクアマリンの瞳を閉じて、青年は静かに息を吐いた。
今度は、僕が言われる番になったかな。
吐き出した息を取り戻すように、ジェレミーは息を吸い込むと、寝室の壁から立ち去った。
そのまま、ゆっくりとリビングダイニングのドアへと向かう。
ドアノブに手をかけ、祈るように目を閉じてから、ノブを回してドアを押し開けた。
水色の髪を揺らして、マーシアがキッチンから出てきたところだった。
両手に持った盆の上には、水と、よく煮込まれた温かいスープの皿が乗っている。
メイシンの部屋に持っていくところだったのだろう。
ジェレミーが入ってきたのを見ると、彼女は少しためらってから、小さな声で彼に尋ねた。
「……メイシン、もう大丈夫ね?」
「……うん」
青年の答えを聞いて、マーシアは静かに盆を持ち、リビングを出ようと歩き出した時、
「君はどうして、彼を選んだの」
ジェレミーの声が、再び彼女の足を止めた。
抱えた盆の上を見つめたまま、マーシアはしばらく無言だった。
「……あなたに、似ているから」
ようやく紡ぎ出された言葉は、ジェレミーにとっては心外なものだった。
「彼が?」
ユリウスと似ていると言われて胃が悪くなったのか、ジェレミーはみぞおちを押さえて眉をしかめた。
マーシアは少し大きな息を吸い込むと、彼女なりの気丈さを持って、満面に笑みを作る。
「独占欲の強いところが」
その笑顔に、青年はいささか打ちのめされた。
こんなところで笑顔を作られるとは思わなかった。
更に追い討ちをかけるように、マーシアは微笑みながら続ける。
「私はあなたをずっと探していたの。でも、あなたは私の前に現れてくれなかった」
そういい終わる頃、マーシアの言葉の端に、感情の波が揺れて見えるようになった。
「だって私は、ずっとあなたを待っていたのに、探していたのに、現れてくれなかったじゃない。
わたしはあなたが好きなの。離れたくなかったの」
探しても逢えない寂しさに、藁をも掴む思いで、「彼」を見つけてしがみついた。
ツインのコードなどすでになく、何のしがらみも引き止める者もなく、彼女はユリウスに自身のエネルギーを注ぎ込み続けた。
神殿の復旧の時でさえ、止めに来なかったではないか。
ブルートパーズの瞳に涙を浮かべ、零れ落ちるのを止められなくなって、マーシアは盆をダイニングテーブルの上に置いた。
涙を拭う細い指を、アクアマリンの静かな瞳が見つめたまま、青年は小さく呟いた。
「……言わせたかった」
そう言わせたかった。
ジェレミーの言葉に、今度はマーシアが目を見張った。
「君は昔から何も言わない。どんなに苦しくても僕を頼らないで、なんでも一人でやろうとして……僕が黙って見てるだけだと思ってたのか? 何度手を差し伸べたいと思っていたか分からないのか?!」
話すうちに彼も感情が高ぶったのか、口調が荒々しくなるのを抑えられない。
ジェレミーの激しさに煽られて、マーシアの瞳から、再び涙が零れ落ちる。
その涙で、アクアマリンの瞳はようやく落ち着きを取り戻したようだった。
「……ごめん」
気持ちを入れ替えるように、ジェレミーは一度息を大きく吐き出した。
彼女が彼に繋がった理由は、彼女の魂の、もっと奥深いところにある。
知っていたからこそ、彼は手を出せなかった。
自分から振り払わなければ、そこから完全に抜けられないことを知っていたから。
だが、そんな彼女を見続けることに、彼の方が耐えられなかった。
だからコードを切った。
そんな自分に、彼女を責める資格はない。
けれどこのまま、もう見ているだけの存在ではいられなくなった。
逃げていたわけではない。
だが、留まり続けることは、結局「逃げ」でしかない。
一歩を踏み出す。
この部屋に入るとき、青年は胸にそう決めていた。
「ちゃんと言って欲しいんだ。何が欲しいのか。何をして欲しいのか。僕は……」
言いかけて、ジェレミーはため息をひとつ吐き出す。己を呆れるように。
「……天使時代の悪い癖かな。頼まれないと動けないなんて」
「……きっと、そう…」
涙声で、マーシアが呟く。
「わたしは、その癖にずいぶん苦しんだんだから……」
ずっと、彼に求めてもらいたかった。
自分から求めるばかりの日々に疲れ果てて。
涙が止まらないマーシアへ、離れた場所から、青年はすっと手を差し伸べた。
「……おいで」
しばし訳が飲み込めず、立ち尽くす彼女に、ジェレミーは微笑みかけた。
「おいで。僕はもう待たない。……待ってたって、君は来てくれないんだから…」
だが、彼女は彼の手を見ることが出来ない。
うつむいた顔から、涙がの粒がぽろぽろと零れ落ちた。
「……わたし…あなたの所に帰る資格なんて…」
「僕だってないよ」
コードを切ったのは僕なんだから。
戸惑うマーシアに、ジェレミーは苦笑を返す。
「お互い様で、ちょうど良いじゃないか」
彼女への言葉でもあった。が同時に、彼自身の気持ちをはっきりとさせるために、ジェレミーはそれを口にする。
「もう終わりにしよう。僕は、君が離れていることに、もう耐えられない」
本音を話そう。
君の前では、もう何も繕わない。
立ち尽くしたままのマーシアに、ジェレミーは更に呼びかけた。
「来てくれないの?」
うつむいたまま、涙も堪えきれずに震えていた水色の髪が、マーシアの細い肩と共に揺れている。
かすれるような声で、彼女はやっと声を絞り出した。
「……きてよ」
その小さな声に目を見張った青年の顔を見ることも出来ずに、マーシアは、ずっと胸に溜まっていたわだかまりを、感情と共に吐き出した。
「あなたが迎えに来てよ! いつもわたしばっかり」
言い終える前に、彼女の身体は青年の胸の中で抱きすくめられていた。
「……来たよ」
水色の髪の上から、青年の声が囁く。
温かい、体温と、胸に直接響く波動が、マーシアの涙腺をますます緩めた。
ずるい……
胸から押し上がる思いが、嗚咽となって溢れ出る。
もう我慢しない。
わたしは、わたしを自由にする。
この人の温もりが、わたしに力をくれる。
マーシアは、このとき初めて、彼の腕の中で大声をあげて泣いた。
泣くことも出来なかった心を、彼女は今、解放する。
。。。こいつらヒネくれすぎだろう。。。orz
メイシンたちと比べたら、そう思わずにいられませんて。。。orz
変な駆け引きしてんじゃねぇ!さっさとくっつけっ!(爆)
自分で書いてるのにね。。。どんな落ちになるんだよコレ(爆)
ってヒヤヒヤしてました。。orz
降りてきたときのメモは大量にあって、もっといろんな事を言っていたのですが。
いっぱいありすぎてもう。。。時系列もへったくれもなく。orz
下の私も混乱するばかり。
あんたたちは。。。ぐだぐだ言いすぎっ!!ウザイ!!やめろっ!!(爆)
要するに核心はココだろ?というところを書き進めて。。この落ち。
。。。なるほどな。と、下の本体、やっと納得です。。。疲れた。orz
今気付いたんですけど。
これ。。今やってきてる大波と(以下自粛)
。。さ。次いこ、次。
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