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【星紡夜話】みなもの光24・再契

「あんたたち、元々ツインだったんだ……」
呆然と呟くメイシンに、ジェレミーとマーシアは苦笑を返す。

しばらく手入れをしていなかった庭を、四人は総出で見回っていた。
伸び放題の薔薇を前にして、メイシンは意気揚々とハサミを構えるのだが、どこにハサミを入れればいいのやら、実はさっぱり分かっていない。
一方のマーシアは、花茎の一本一本を丁寧に見ながら、新芽を残して枝を切り離す。
「まだ綺麗なお花もあるから、おうちに持って帰って飾りましょう」
バケツに水を張った中に、家に飾る花を丁寧に差し込んでいく。
マーシアの手際のよさを横目で見ながら、メイシンは更に尋ねた。
「……それで、もう一度ツイン契約し直すの?」
「コードなら、もう繋ぎ直したよ」
「はやっ」
ジェレミーの返答を聞いたメイシンは、目を丸くして思わず叫んだ。
アクアマリンの青年は、そんな少女ににっこりと笑顔を返す。
「繋ぎ直すだけだからね。元の鞘に収まっただけだから、特別なことは何もないし」
「ふーん……」
メイシンの視線の先で、楽しそうに薔薇と向き合うマーシアは、静かに鼻歌を口ずさみながら穏やかな笑みを浮かべていた。
ジェレミーの元に戻ってからのマーシアは、それまでの沈み込んでいた感情が安定したのか、このところ笑顔が絶えない。

なんだか不思議なものを見るように、メイシンが彼女の横顔を見つめていると、離れた場所から、ユリウスがメイシンを手招きして呼び寄せた。
「メイ、お前落ち葉集めしろよ」
「な~んで~」
「お前に薔薇の手入れは無理」
「やってみなきゃ分かんないじゃん」
「じゃあ芝刈りするか」
「なんでそんなにやめさせたいわけ?」
「花が可哀想だろ」
きーっと、金切り声を上げてふくれる少女の顔を見て、ユリウスは声を上げて笑った。

しばらくすると観念したのか、メイシンはハサミをほうきと塵取りに持ち替えて、地面の上に散らばった薔薇の葉を集め始める。
「……でもさぁ…」
視線の先で、仲睦まじく花の手入れをするマーシアとジェレミーを、メイシンは訝しげに見ながら、二人には聞こえないように小さく呟いた。
「信じらんないなぁ。ツインのコードをわざわざ切るなんて」
「離れてみなきゃ、分からんこともあるんだろう」
「そんなもんかなぁ……」
最初から独りであった少女には、ジェレミーとマーシアの胸の内が理解しがたい。
自分の対であってほしいと願う人を、ずっと追い続けてきた、祈りのような日々と、孤独と寂しさを思えば。
「そんなの絶対、二人でいた方がいいに決まってるじゃん…」
ツインの二人を見つめる瞳に愁いを漂わせて、メイシンが呟く。
少女の瞳を覗き込んで、ユリウスが真顔で言った。
「なにお前、寂しいのか」
「……誰がそんなこと言ったよっ」
「頼んでみるか、ミカエルに」
「なにを?」
「コード。繋いでもらえるように」

……誰の?

と思った瞬間、頭の中が真っ白になり、メイシンの表情が一瞬強張った。
固くなった表情を崩すように、ぶんぶんと頭を振リまわす。
「無理ムリ~!あいつは切るの専門なんだから~!」
「たまには繋ぐことだってあるだろ」
「やんないよー!あいつケチだもん!」
少女が彼を拒絶する理由はなにもない。
ただ突然の話に、頭が混乱してしまい、自分でも何を言っているのか分からない状態になっていた。
少女の慌てようを静かに見ていたユリウスは、深く息を吸い込むと、一喝するように吐き出した。
「……分かった!」
「な、なにっ?」
「一回しか言わないからよく聞け」
「え……はい…」
ユリウスの「気合」に気圧されてしまった少女は、自分でも意外なほど、素直にじっと次の言葉を待った。

「メイシン、俺のツインになってくれ」

金髪からのぞく真っ直ぐな碧い瞳が、少女を捉えて離さない。
メイシンはまたしても、頭が思考を放棄する事と戦う羽目になった。

なぜそこまで、自分は驚いているのだろう。
彼の気持ちは知っているはずなのに。
自分の気持ちも知っているはずなのに。

メイシンの口から出た言葉は、半信半疑の頭を納得させるために出たものだった。
「……あたしでいいの?」
「前からそのつもりだった」
「後悔するかもよ?」
「お前の悪態ごときで愛想尽かすなら、俺は今こんな所にいない」
「だってあたし、女らしいこと何にも出来ないし……」
「ジェレミーは男らしいことは何も出来ないぞ」
淡々と答えるユリウスの言葉に、離れた場所から聞いていたジェレミーが苦笑する。

まだ呆然としているらしい少女を見下ろして、ユリウスは言葉を紡いだ。
「俺はずっと、お前のツインになりたかった。お前が俺を『ユーリ』と呼んでいた時から」
天使時代の記憶を手繰り寄せながら、あの頃から変わらない想いを、彼は再び口にする。
聞かされたほうの少女は、青い瞳を見開いたまま、呆然と青年を見上げるしかなかった。
「……知らなかった?」
微笑むパライバの瞳が、涙で滲んで見えなくなってしまった。
メイシンは懸命に涙を拭いながら、やっとの事で声を絞り出した。
「……知らないよ……そんなの…知らないよぉ……」
その後は言葉にならず、メイシンは胸から込み上げるものを必死になって押さえ込む。
「ミカエルに頼んである。今度生きて帰ったら、お前とツインにしてくれと」
遥か昔の申し出を、彼はずっと心に留めたまま、何度も機会を得ようともがいてきた。
今やっと、その機会が訪れる。
満を持して、ユリウスはその言葉を口に出した。
「俺と結婚してくれ、メイ」

如何とも表現しがたい少女の感情に、流れ込んできた彼の言葉は、更に彼女の感情をかき回し混ざり合った。

ずっと待っていた言葉だった。
不本意な別れ方をしてから、悲しい最期を迎えた瞬間から、
ずっと待ち望んでいた言葉だった。
でも、少女には何度も聞いた事があるような氣がする言葉だった。
「佐守」の時にも言われた。
きっと、他の過去生で出会った時も。

すると何故か、笑いが込み上げてくる。少し前にも聞いたことのある言葉だったと、思い出して。
「……おかしー…。だって、二回目だよ、プロポーズ」
「今度は、お前だけだ」
あの時はマーシアがいた。
同じ身体の中に、異なる二人の少女がいた時、彼の中にも二人の青年がいた。
今は違う。
四人はそれぞれ個として存在し、ジェレミーとマーシアはすでにツインとして再び繋がっている。
そして自分も。
あの次元の誓いとは違う、今度は替えのきかない、不変の契りを今、交わしたい。

ユリウスはメイシンの肩を掴まえて、泣き腫らす少女の顔を覗き込んだ。
「俺だけのものになってくれ」
ピーコックグリーンの、穏やかだが強い意志の宿る瞳に見つめられ、メイシンはとうとう、胸から込み上げてくる感情を押さえ込めなくなった。
言葉が出なくなってしまい、大きく頭を動かして頷きながら、メイシンは大声を上げて泣き出した。
泣き崩れそうになる細い身体を、ユリウスが抱き留める。
「……ユーリ……ユーリィ……!」
胸の中で泣きじゃくる少女が愛おしく、青年は抱きしめる腕に力を込めた。

少し離れた場所から二人の様子を伺っていたジェレミーとマーシアが、顔を見合わせて微笑む。
「……じゃ、前祝いといこうか」
「腕によりをかけてご馳走作らなきゃね」
明るい二人の声が、泣き続ける少女の耳にも届く。
その声でメイシンはやっと涙を拭い、温かい青年の腕の中で、照れくさそうに、えへへ、と笑った。


この時期、まさしく「お盆のすぺさるサービス週間」でした。(笑)
ユリウスの登場に始まって、4人それぞれのツイン契約に至るまで、私が実家に帰省しているお盆の数日間のうちに行われたんですよね~。。。orz

お墓参り、効きましたよ。(爆)
ご先祖様ありがとう~☆

。。。。あ~~。。。はずかし~。。。orz

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