日が暮れた頃、ジェイはもう住み慣れた小さな家のドアを開けた。
リビングのソファに、横になって眠る藍色の髪の少女の姿が目に映る。
「おかえり」
少し離れたダイニングテーブルで、ジェレミーが端末を叩いていた手を止めた。
テーブルの上には、デザートが乗っていたであろう皿が数枚、積み重ねて置いてあった。
甘々だな。
苦笑するパライバの瞳に、アクアマリンの青年は笑って言った。
「その皿の数だけ、魔法陣を覚えたよ」
「格段の進歩だな」
笑みをこぼして、ジェイは台所でグラスに水を汲んだ。
水を注がれたグラスを見つめると、さっきまでの柔らかい表情が、碧い瞳から瞬時に消える。
「まだマーシアと会う氣にならないか」
突然出てきた名前に、ジェレミーは一瞬戸惑った。
「……もう少し、時間がほしい」
ジェレミーの口から出た言葉に、碧い瞳の青年は小さくため息をついた。
彼女も同じことを言っていた。
神殿の修復を中座し、休息の為にひとまず家に戻ろうとしたときだ。
一緒に帰ろうと誘うジェイの言葉に、マーシアは首を振った。
「まだ、あの家に行く勇気が出なくて……もう少し、時間が欲しいの」
寂しげな表情を残して、彼女は再び、泉のほとりへ帰っていった。
この二人の間に立ちはだかる壁は「悔恨」か、それとも「恐れ」か。
お節介だと思いつつ、彼は言わずにいられなかった。
「彼女はもう大丈夫だ」
ジェイの言葉に、アクアマリンの青年は小さく頷いた。
「待ってるぞ」
「……分かってる」
端末から浮かぶ、光の文字を見つめたまま、ジェレミーはテーブルに肘をつき、思い詰めるような表情になった。
……どんな顔をして会えばいい?
彼女の過去から、悲しみと苦痛を呼び起こしてしまいそうで、面と向かって彼女と会うことなど出来ない。
とはいえ、メイシンを通して、彼の存在を、マーシアも充分感知しているのだが。
アクアマリンの瞳が揺れ動くのを、ジェイもまた、沈むような気持ちで見つめてから、グラスの水を一気に飲み干した。
一息つくと、まっすぐにメイシンが眠るソファへ歩み寄り、深い寝息を立てる少女の身体を抱き上げる。
「そこで寝かせててもいいよ?」
ジェレミーの言葉に、ジェイはニヤリと笑って答えた。
「こいつは俺のものだから」
パライバの瞳の奥に、ジェレミーとは対極の光が浮かび上がる。
「彼女」の前では、絶対に見せない「光」。
それが自分への挑発だということは、痛いほど分かる。だからこそ、彼は胸の奥でこう言わずにいられなかった。
君はいつまで、その「光」を隠し通すつもりだい?
寝室へ続く廊下のドアをくぐる彼を、目だけで追いながら、ジェレミーは苦笑した。
「……ごちそうさま」
殴られないようにね、と、小さく呟いた声は、おそらくジェイの耳には届かなかった。
翌朝。再び始まった「魔法陣講座」の講師は、前日に続き、ジェレミーが担当した。
ジェイは神殿の修復にしばらく専念するらしく、メイシンが目を覚ます頃には、すでに彼は家を出てしまっている。
何故か氣に食わない。
メイシンは、耳に陣の説明が入ってこないほど苛立っていた。
「……ねぇ」
アクアマリンの優しい瞳を、上目遣いで睨み付け、少女は静かに言った。
「あんたたち一体、何やってんの?」
「……え?」
少女の唐突な言葉に、青年は戸惑う。畳み掛けるように、メイシンは詰め寄った。
「誤魔化さないでよ。あたしに黙ってなんかやってるだろ?」
……ひょっとして、神殿のことか。
メイシンには何も告げていなかったのだが、マーシアと魂レベルで繋がっている彼女には、隠していても何か感じるものがあるのだろう。
「なんであたしだけ、蚊帳の外なんだよ」
「僕だって蚊帳の外だよ」
にこにこと答える青年の明るい返答を聞いて、メイシンの胸の中で、我慢計の針が振り切れた。
「ひょっとしてこれ、あたしを足止めするためにやってんの?」
「何言ってるの」
少女の言葉に驚いて、青年の顔色が変わった。
──やっぱそうじゃん。
メイシンはいても立ってもいられず、椅子から立ち上がり玄関を飛び出した。
「ちょっと待って!」
慌てて、ジェレミーが後を追いかける。
走りながら、神殿の前まで一気にポータルを繋いだメイシンは、先日見た白い廃墟が、光の帯に包まれているのを見て、言葉なく立ち尽くした。
光の波動に、見知った「二人」のエネルギーを感じる。
何やってんの……!
血相を変えて、少女が神殿を包む光の中に飛び込もうとした瞬間、後ろから腕を掴まれた。
追いついたジェレミーが、彼女を引きとめようと握った手に力を込める。
少女は神殿の奥に向かって、居るであろう彼の名を叫んだ。
「佐守!」
「メイシン!」
いつになく大声を上げて、ジェレミーは少女の気勢を制す。
メイシンは藍い髪を振り乱し、噛み付くように振り向いた。
「あんた平気なの!? あそこにマーシアがいるの分かってて、なんで黙ってんの!」
「僕じゃ無理なんだよ!」
思わず叫んでから、自分の言った言葉に、青年は何故か愕然とする。
この神殿に関する限り、過去に関わったマーシアと、ジェイの中に居る「佐守」の魂が復旧しなければならない。
理屈は分かっている。
だが、彼の愛する彼女たちは、いつも自分ではなく、「彼」の方ばかり見ているような氣がしてならなかった。
まだ青年の手を振り切ろうとする少女の腕を、更に強く握り締めて、ジェレミーは腹の底から呟いた。
「僕じゃ駄目なのか……?」
アクアマリンの瞳の中の光彩が、不安定に揺れているのに氣が付いて、メイシンは我に返った。
「……なにいってんの……」
呆然と呟く少女の胸を、青年の不安が横切った。
(頼むよ……否定しないでくれ……)
心話と共に、青年の感情が流れ込んできて初めて、少女は彼の心中を察することが出来た。
「ごめん……そんなつもりじゃなくて……だって……」
何の説明もなく、彼女にとっては突然に始められた「エネルギーワーク」に戸惑ったのだ。
複雑な胸の内は、この人も同じ。
メイシンは、自分を掴む青年の腕を抱きしめた。
今はこの人の支えになろう。
彼が自分の「守護天使」だと言ってくれた、その涙の感情を抱きしめながら、メイシンは呟いた。
「帰ろう……」
(ごめん、ジェレミー……)
少女の心話が胸に染みたのか、青年はメイシンの華奢な身体を抱きしめた。
神殿の光の波に共鳴するかのように、彼らの姿もまた、光を帯びていった。
メイシン、落ち着け。頭がぼわんぼわんして、ちゃんと表現出来てるかわかんねーよ。orz
時間を置いて、後でもう一回見直しますけど。。。
ていうかあのぉ。。。こないだから、台詞がおかしいよ、あんたたち。orz
安いメロドラマみたいじゃないかよぉぉぉ。。。。(T▽T)
ジェレミーとジェイ君のやりとり。。。細かい描写を入れていくうちに、なんだか。。。orz すいませんねぇ、もう。降りてきたとおりの台詞なんですけどねぇ。。。思えば、この辺からすでに、ユーリ君「浮上」してたのですね。(笑)
ふと。記憶が「解凍」されれば、魔法陣の覚え直しなんてしなくてもいいのかな~?
なんて、ふと思ってしまったです。
「覚え直し」って言ってる辺り。。。。やはりそうなのかな、と。
次回? いま頭がメイシンモードなんで、ちょっと分かりません。。。orz
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