カテゴリー
風の小径 星紡夜話会員記事暫時全体公開 星紡夜話・みなもの光

【星紡夜話】みなもの光10・光の深淵2

翌朝。これから行う陣の説明を、男は淡々としていた。
彼女は意外にも冷静だった。てっきり取り乱すかと思っていたのだが。
説明を聞き終えて、顔を上げたとき、彼女の瞳は決意に満ちていた。

怖くはないのか。

過去に、この時点でほとんどの者が怯えていたことを思うと、彼女の態度はあまりにも、男の意表を突いていた。
そしてまた、突拍子もないことを、この女性は口にしたのだ。

「あなたは、この仕事で、この世界を守っている。わたしは、あなたの心を守りたい」

男は、軽いめまいを覚えた。
出会って数日しかたたない者が言う台詞だろうか。
何故、そこまで真摯に受け止める?
何故、そこまで他人を思える?

神殿を通して繋がっているとはいえ、ここまで深く、自分の心を見透かされるような感覚は初めてだった。

彼女を映す視界に、波のような揺らぎが起こる。
無意識に、彼は涙していた。

彼女には、男が押し込めている感情が見える。
この状況から、一刻も早く開放されたいという思い。
その感情の元となった、過去に儚く散った女性たちの姿が、彼女の胸に迫り来る。

どれだけの思いを、この人は押し込めてきたのだろう。

今、自分が出来るのは、この人の陣を完成させることだけ。
その為には、二人の連携は絶対不可欠だった。

この人を、わたしは受け入れる。

その決意に満ちた瞳が、男を涙させた。

「……これが最後だ」
囁くように、男は言った。
「失敗しようと、成功しようと、これが最後の試みになる」

これは、上の実験なのだ。
はなから失敗を見越して行われてきた。使い捨ての実験道具のように。
捨てられる日は目前に迫っている。
それでも。

「君の力は、陣を支えるだけでなく、強化するために使われる。「闇」が陣を破ろうとするほど負荷がかかる」
だが、自分の力が及べば、この女性は助かるかもしれない。
一縷の望みを繋ぎ止めたい思いが、男の胸を突き動かした。

「……死ぬつもりですか」
また、彼女は彼の胸のうちを感じて、小さく呟いた。
「わたしは、力を使われるために選ばれました。わたしが力を出し尽くせば」
「死なせたくない」
反射的に出た言葉に、男は戸惑った。
その言葉は、彼の感情を押し込めていた扉の鍵。

堰を切ったように、男の胸から感情が迸る。
自分の中の嵐に耐えるだけで、彼は手一杯だった。
言葉など、紡ぎだす余裕はない。

そしてまた、女性も彼の嵐に翻弄されていた。

わたしは、余計なことをしたのでしょうか。
あなたを苦しめたのでしょうか。

(そうじゃない)

嵐の中から、辛うじて彼の心話が届いた。

(君は痛みを理解してくれた)

声にならずとも、彼の言葉は胸に響く。

(……失いたくない)

女性の瞳から、大粒の涙が溢れ出した。

「……少しだけ、時間が欲しい」
嵐が、彼の手中に納まる大きさになると、ようやく声を絞り出すことが出来た。
「一緒に、居てくれるか」

彼女は、小さく頷いた。

もう、独りではいられない。
それは、彼女とて同じ思いだった。

……あの後、二人で発動した陣は、辛うじて成功した。
ほんの僅かな時間だったが。

マーシアの白い手を引きながら、ジェイは記憶の淵を漂いつつ、歩を進めていた。

あの時敷いた魔法陣は、結界に触れてきた「闇」に対して、積極的に攻撃を仕掛ける陣。単純なものだったが、それを支えるエネルギーを莫大に消費するものでもあった。
彼女の魂が限界に達したとき、彼は咄嗟に、自身のエネルギーを彼女に流していた。
彼女のエネルギーは常に陣へと流れ続けていたから、それが彼女を救う手立てにならない事は分かっていた。

結局二人は、光の粒子となって消え、支えを失った神殿は崩壊し、廃墟となった。

あの陣を敷くと、何故か根源からの光を、正常に陣へと送り込めなかった。
失敗を前提とした実験だったのだ。
今更ながら、苦々しい思いを、ジェイは奥歯で噛み砕いていた。

煤けた神殿の、白い粉塵にまみれた祭壇。崩壊の際に開いた、天井の大きな穴から、眩しいほどの陽光が差し込む。
二人がたたずむ祭壇の周りだけが、スポットライトを浴びたかのように明るく浮き上がっていた。

青年が握る細い手が、小刻みに震えているのに、彼は気付いた。
振り向くと、青いウェーブの髪の中で、彼女の顔が涙を溜めて震えている。
「……ごめんなさい……」

震える声を聞きながら、青年は再び身につまされる思いだった。
彼女が謝る理由などない。
自分なら、「実行しない」という選択も出来たはずなのだ。なのに彼女を巻き込んでしまった。
「違うよ、マーシア」
白い顔にかかる髪を掻き揚げて、青年は彼女の頬を伝う涙を拭った。
「君のおかげで、俺は救われた」
昔と変わらない、細い身体を、彼はそっと抱き寄せる。

俺の愛する巫女。

「戻ってきてくれて、ありがとう」

ずっと長い間、凍りついて動かなかった胸のつかえが溶け出すように、マーシアは彼にしがみついて嗚咽した。

ここを、希望の砦にしよう。
今なら、きっと出来る。

ジェイは彼女を抱きしめたまま、根源の光に自分を繋ぎ、エネルギーを降ろし始めた。
彼から彼女を伝い、神殿に光が広がる。
それは白い粉塵を払いのけ、場を洗い清めるように、崩れた廃墟を復元していった。


マーシアさんならではだよね。。初めて会った男に入れあげるなんて(笑)
メイシンだったら、一刀両断だよね~。。orz

ていうか、ホントにこれで合ってる?orz 彼らがそうやって死んでいったっていうのは、確信あるんだよ。でも周りの環境とか設定が。。。なんか思いつくまんまに書いてますけど。
最初この話が降りてきたときは、すごい和風な感じで。。「陰陽師」みたいだったんだよ。
だからてっきり、雅な時代の過去生かなぁ。。と思ってたんですが。
なんでか。。いつの間にかこんなんなってまして。。。orz

多分、これが始まりで、このカルマ解消のために、似たような過去生繰り返したんじゃないかなぁ。。
「陰陽師」はそのひとつだったりとか。

ということにしとこう。
大体、マーシアさんの過去生は感情メインで、時代背景がサッパリなのが多すぎる。orz
ジェイ君がいなかったら、ここまで詳細にかけなかったよ~。。
いいんだ。カルマさえ解消できれば。お話として面白ければ。(笑)

今思ったんですが。なんでこんなに「実験」絡みなんでしょうか。うちらの過去って。orz

次回。現代の神官と巫女は、この神殿、どう使う? の巻。。。は、お盆明けにアップします。
しばらく実家に帰省しますので。
それでは、せっかくなのでご先祖様と良い週末を~(笑)

コメントを残す