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【星紡夜話】みなもの光16・灼癒の女神2

「……スッキリした?」
カスタリアに戻るなり、メイシンを見たジェイがぼそりと呟いた。
「なんか怒ってんの?」
「いや、別に」
どことなく仏頂面で、ソファに座ったまま、青年は視線を外す。
メイシンはそれを見て、少しだけ肩をすくめた。
「マーシアどこ?」
「さあ。部屋にいるだろう?」

マーシアがこの小さな家に来てから、新たに寝室を2つ増やしてある。
ジェレミーが少しの間ひとりで居たいと言い出したのもあるのだが、その為に各々個室を持つようになっていた。
その寝室へ向かおうとするメイシンの後姿に、ジェイの声が突然刺さった。

「メイシンだからどうだとか、マーシアだからどうだとか、俺は分けて考えられない」
は? と、驚いて少女が振り返ると、ソファに座ったまま、思い詰めるようにうつむいている青年の姿があった。
「お前は俺に、初めて愛を教えてくれた。お前を抜きにして、俺は人を愛せない。お前がいなければ、俺は今ここに存在すら出来なかったんだ」
少しだけ顔を上げた青年の瞳が、揺れているように、メイシンには見えた。
「俺と一緒にいてくれ。俺を否定しないでくれ。お前は俺に望まれてここにいる」
うつむいたまま、祈るように訴える青年の、組まれた指先に、力がこもる。
「……やっぱり怒ってんだ」

勝手にミカエルの所へ行ったから。

青年の只ならぬ様子に驚いて立ち尽くしていたが、少女はひとつ息を吐くと、わざとらしく大声を出していった。
「ああ、やんなっちゃう。マーシアはあたしがいないと何にも出来ないし、ジェイはあたしがいないと死じゃうって言うし、ミカエルなんか、あたしが俺の一部だーなんて言うしさー。そんなに頼られたら、あたし潰れちゃうよー」

大声になったのは、照れくさいのを吹き飛ばすためだったかもしれない。
一気に言い放つと、メイシンは彼の座るソファの前へと足を戻した。
少女の言葉に反論しようとしたジェイの頭を、メイシンは抱きかかえる。
自分ひとりが辛いと思っていたら、思いがけず彼にも同じような気持ちを吐露されてしまった。
思い詰めると周りが見えなくなるのは、少女の悪い癖だ。
いやむしろ、少女が単身ミカエルのところへ行ったから、彼にそう思わせたのかもしれない。

(……ごめんね、佐守。ここにいるよ)

ジェイの中でわだかまっている魂に、そっと呟く。
青年は、何も言わなかった。
ただ、少女の細い腰を抱き返して、その胸に顔を深くうずめた。

「マーシア、入っていい?」
木製の固いドアをノックして、メイシンは返事を待たずにドアノブを回した。
白いベッドに腰掛けていた、青い髪の女性が振り向く。
突然入ってきた少女には何も言わず、ただじっと、少女と同じスイスブルーの瞳でメイシンを見つめた。
「えっと……」
吸い込まれるような瞳を見て、少女は少したじろぐ。
ドアを閉めると、メイシンは思い切ったように口を開いた。
「謝ろうと思って」
マーシアは、少しだけ首をかしげた。
「あたし……あんたの事、嫌いだった」
マーシアの瞳が、沈むように下を向いた。
「……ごめん。でも、あたしのワガママだったから。だから、謝ろうと思って」
マーシアは首を横に振った。青い髪が、ふわりと横に揺れる。
「……わたしもそうだから」
「え」
「あなたがずっと”彼”の傍にいたから、わたしはここに来れなかったの。……それだけじゃないけど……」
「……あ、そう……はは」
渇いた笑いで、メイシンは驚いた心を潤そうとしていたようだった。
そんな引きつった笑いを浮かべる少女に、マーシアは柔らかい笑みを投げかける。
「ありがとう、メイシン。あなたがいたから、わたしは今まで生きてこられた」
優しい瞳に、少し翳りを見たようで、メイシンは笑いを収めた。
過去を振り返るような、ほんの僅かな憂い。
辛い記憶の傍に、いつも寄り添っていた魂。

それは、きっとお互い様。

お互いの欠点を補うように、寄り添わされた魂。
誰の思惑なのだろう。誰がこの組み合わせを考えたのだろう。
全く違う性質を持っていながら、二人の願いは、たった一つ。

「ねぇ。あたしたち、”想い”は同じだよね」
ただ、あの人に逢いたいという想い。ずっと愛することのできる環境を、手に入れたいと言う願い。
メイシンの強い瞳を見つめて、マーシアは静かに頷く。
「あたしと、もう一度統合してくれる?」
マーシアの青い瞳が、少しだけ大きく見開いた。
しかしその瞳は、すぐに憂いを称えて深く沈みこむように下を向く。
「……でも、わたし……」
「大丈夫。ジェレミーは絶対分かってくれるよ。ちょっと意地張ってるだけだって」
「……うん」
マーシアの瞳は、不意に訪れた悲しみに、耐え切れず涙ぐむ。
不安定な彼女の魂と統合する事を、ジェイに言えば反対されるかもしれない。けれど、彼女には自分が必要であり、そして自分も、この繊細な女性が必要なのだ。
メイシンは、ベッドに腰掛けるマーシアの側へ寄ると、そっと青い髪の上から抱きしめた。
「あたしと……融合してくれて、ありがとう」
少女の温かい腕が、マーシアの涙を更に誘った。

……ありがとう。わたしを見捨てないでくれて、ありがとう…

高次元の魂に、意識を繋ぐ。
わたしたちの、もうひとつの形。
青と金に輝く魂。ひとつになればきっと、いやし輝く色になる。

翌朝、彼女がダイニングに顔を出すと、奥のキッチンではジェイが朝食の準備をしていた。
「あれ、ジェレミーは?」
「ああ、また統合した」
下を向いたまま、簡潔に青年は答える。
「そうなの?」
「お前が取り乱してミカエルの所に行ったから、このまま分かれてるのはまずいだろうと……」
盛り付けをしていた皿から顔を上げて、彼女を見た青年は言葉を失った。
てっきりメイシンと話をしていたつもりの青年は、キッチンのカウンター越しにたたずむ女性の姿に、思わず息を呑む。

窓から差し込む陽光に照らされる、明るく透けるような水色の髪。大きくうねる髪が腰まで伸びているのは、マーシアのそれとそっくりだ。だがその白い顔に映えるスイスブルートパーズの瞳は、メイシンのそれと同じ、力強い生気に満ちている。白いドレスをまとって、その姿はまるで北欧神話の女神のように、彼の目には映った。
「なぁんだ。考えてることは私と同じだったのね」
彼が統合したと聞いて、彼女は肩をすくめた。話し方まで彼女たち二人が混じっているようだ。

ジェイは吸い寄せられるように、カウンターをまわって彼女の前に立つと、前置きもなく彼女を抱きしめた。
背も少し伸びているようだ。今まで青年の胸にすっぽり収まっていた彼女の頭が、今は彼の顎の下にある。
「……おはよう。僕の女神」
青年の腕の中で、女性は思わず吹き出した。
「今の、ジェレミーでしょ」
「いや、俺たちの総意」
さも当たり前のように答える青年の笑顔に、彼女は声を立てて笑った。
「でも、名前が思いつかないのよ。メイシンじゃないし、マーシアでもないし。ずっと考えてるんだけど……」
「……マリア・メイ」
唐突に提案された名前に、女性は青い瞳を瞬いた。
「どう?」
「……それ誰かとかぶってない?」
「そんなことない。”メイ”が入ってる時点で誰とも被らない」
彼女はまた吹き出した。
彼のこの根拠のない自信は、いったいどこから来るのだろう。
「いいわよ。あなたがそう呼びたいんでしょ?」
青い瞳が、朝陽を浴びて輝く。明るく照らし出された美しい笑顔を間近で受け、青年は眩しそうに目を細めた。
淡色の唇に、青年はそっと口づける。突然の挨拶にも物怖じしない彼女の青い瞳が、彼を嬉しそうに見上げた。
そしてパライバ色の瞳もまた、愛しむように彼女を見て言った。
「……食事にしようか」


あぁ。やっと書けた。orz
何を苦労したかって、真ん中の。。。ごにょごにょ。(爆)
フィードバックで何回も降りてくる感覚との戦いですよもう。。。勘弁して。orz
かなり恥ずかしい回であることは重々承知しております。。。あぅ。

氣を取り直して。
メイシンやマーシアよりも高次元の、「ハイヤーセルフ」の誕生です。
誕生っていうか、やっと繋がれたんですかね、下の私が。
正直、今までも統合してたのにこの姿にならなかったのは、高次元の存在に繋がるのにカルマが邪魔してたからかもしれませんねぇ。。
現在の状況から思うに。マリア・メイはメイシンやマーシアたちとはまた個別の存在として、これからやることが増えていきそうな予感。
彼女の名前、ジェイ君に勝手に決められました。。。マジで勝手に。( ̄▽ ̄;)
そのうち、ジェイの名前を変えてやろうと目論んでます。だって今のはジェレミーの愛称の流用だもん。。。楽しみにしていなされ。ふふふ。

ひょっとしたら、日食前に統合したのは、必然だったのかな。
今になってそう思います。なんとなく。
さて。いよいよあの話に入れるかな~。

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