カテゴリー
風の小径 星紡夜話会員記事暫時全体公開 星紡夜話・みなもの光

【星紡夜話】みなもの光17・燈は翳る1

カスタリアの小さな家に、マリア・メイとジェイの二人だけが暮らすようになって間もなくの事。

二人の共通の過去において存在し、今もなお稼動し続けている「研究施設」と呼ばれるものの、「中核」を破壊して欲しいとの依頼が、三次元の本体を通して舞い込んだ。
「中核」とは、メイシンが過去に「被験者」として在籍していた研究施設やその類似施設に、無尽蔵のエネルギーを送り続けるシステム。

このシステムの破壊依頼を、彼女たちは快く引き受けた。

「久しぶりに、思い切り暴れられるじゃない?」
マリア・メイの中のメイシンが、興奮冷めやらぬように口走る。
だがこの件を引き受けた時から、ジェイの方は終始無言になった。

彼は件を引き受けてからしばらく、思い詰めるように思考に沈んでいたが、ただ一言、
「神殿に行く」
とだけ言い残して、小さな家を後にした。

普段とは全く違う様子に、マリア・メイの顔色が曇る。
ほどなくして、彼女はジェイの後を追って神殿へ向かった。

鬱蒼とした森の中に、隠れるように佇む神殿は、先の修復作業で見違えるほど美しくなっていた。
白く煤けていた円柱や壁、床に至るまで、白く透き通るほどに美しく、磨き上げられた水晶のようだ。日の光を浴びて透ける壁に、幾重もの小さな虹が浮かび上がる。

その神殿の最深部で、二人は光を降ろし続けていた。
各々が両手に愛剣を持ち、降ろした光をその刃に染みこませる。
いつも以上に膨大な量の光を降ろし、己の波動をも共に上げ続けていく。
それと比例するかのように、彼を取り巻く波動が、何者も寄せ付けないような殺気を帯び始めた。
青年の張り詰めた「氣」が、痛いほどの勢いで彼女の白い肌に刺さる。
驚いて、彼女が青年に声を掛けようとした瞬間、彼の脳裏に浮かび上がった過去の記憶が、彼女の胸に流れ込んできた。

無意味な殺戮の瞬間。実験材料として使われていた、琥珀の瞳の少女。肉体強化、エネルギーリミッター解除の手術。そこに居合わせた、無機質な目を持つ男たち。
彼女に流れ込んでくる彼の記憶は、彼女が実験に使われていた「被験者」であったことを、まざまざと証明するものだった。

ジェイに意識をあわせ、その記憶の断片を垣間見たことで、自身の記憶の封印が解かれようとするのを、彼女はみぞおちで辛うじて堪えた。

マリア・メイは自分の剣を鞘に納めると、向かいに立つ青年に、苦しそうな声を掛ける。
「……ねぇ、ジェイ。ちょっと休憩しよう? 神経張りつめすぎよ」
彼女の声が聞こえないのか、両手にかざした剣を睨みつけたまま、青年は動かない。
「……お腹すいたから! 食事にしよう! ね!」
彼女の声に悲壮感を感じて、彼はようやく手元から顔を上げた。
思い出さなくとも、彼の記憶を垣間見ただけで、彼女の胸は苦しく、訳もなく悲しみが込み上げてきていた。
それを察したのだろうか。ジェイはようやく光を降ろすのをやめ、静かに白刃を鞘に納めた。
だが、彼の覇気が収まる気配はない。

なぜ彼らに白羽の矢が立ったのか。
それは自らも関係者だった「金髪の歌姫」の配慮に他ならない。

『そこに関係した人たちの手で、解放してやりたい』

自らの手で作り出し動かし続けたものは、自らの手で終わらせなければならない。
たとえ、それを作りだした者達が、利用してきた者達にそう仕組んだのであったとしても。
それでも皆が、解放されたいと願った結果であろうから。

それで過去の痛みを、共に消せるのなら。

歌姫の配慮に感謝しながら、青年は両手に握る剣の、柄の感触を確かめた。


「擬似ミカエルシステム」破壊工作のお話です。
(※2020年2月22日追記※ りゅーらさんから持ちかけられた話です。彼女が抱えていた闇の部分を、彼女と因縁のある過去を持つ人と協力して破壊し解消しようとする内容でした)

思った以上に苦戦しました。この時のジェイ君の内面を探ろうとすると、具合悪くなりそうで。。。なかなか踏み込めず。orz
書いてても、なんかいつもと違う、文章にすごい違和感があって。明らかに私の文章じゃないです。これは。。。コレは多分、彼(ジェイ)だ。orz

リアルタイムでは、過去の映像が走馬灯のように降りてきましたから。
あの時はさすがに気分悪くなって。。。「飯に誘って中断させて」とお願いしたのは下の私です。orz
あ~これ。。「過去話」と同じくらいヘビーだわ。

でもねぇ。。これ書かないと、終わらないから。私の過去が。
いや。多分、彼の過去が。

今思えば。。。彼の為に用意されたステージなんだわ。。。これ。。。

そんなわけで。。。もう少しだけお付き合いください。

コメントを残す