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風の小径 星紡夜話会員記事暫時全体公開 星紡夜話・みなもの光

【星紡夜話】みなもの光3・星もとむる者

青い泉を取り囲む緑が、静かにそよぐ。
泉の水面に、ひとつに重なる影が映る。

少女の華奢な身体を抱きしめて、緑の大天使は遥か根源の空から光を降ろしていた。
一度その光を自身で受け止め、ハートチャクラ越しに少女へと流し込む。
直接少女に光を繋がないのは、膨大なエネルギーをいきなり流し込んで、ショックを与えることを避けるためだった。

穏やかに、ゆっくりと、温かい光が少女に注がれる。

少女は眠るように、大天使の胸の中で、静かに瞳を閉じていた。
その温もりを感じているだけで、彼女は安堵できた。

ツインの契約を結んだはずの、彼と繋がる事を苦痛に思うのは何故か。
今回のツイン契約で、思い知らされた事実。

わたしの中のカルマは、何一つ解消されていない。

そして、どうしてこの人でなければ駄目なのか、今ならば分かる。
ずっと遠い、過去の幼い記憶が、少女の中で蘇っていた。

世界樹と繋がる、堂々とした太幹を持つ木の下。
そこからずっと芝生が広がる先を、大天使は見ていた。
エメラルドの瞳の先にあるのは、白い洋館。
彼はそこを、久方ぶりに訪れる。

「……お父さま!」
洋館に足を踏み入れると、幼い少女が彼に駆け寄り、足元に飛びついてきた。
彼の腰ほどの背丈しかない、幼女の小さな身体を優しく抱き上げて、大天使は微笑む。
幼女の後ろから付いてきた養母が、その二人の前にひざまずいて一礼した。
「元気そうですね、マイア」
大天使にマイアと呼ばれた養母は、声を掛けられてはにかんだ。
「彼女は随分と、待ち焦がれておりましたわ」
「お父さま、ちっとも帰ってこないんだもの」
彼の耳元で、小さな頬がふくれている。
その小さな顔の横に流れる、柔らかくうねる髪に優しく触れながら、大天使は呟いた。
「ごめんよ。仕事が忙しいものだから」

(特に変わったことは?)
幼女をあやしながら、大天使は傍に控える養母に心話を送った。
(起きている間は何も。ただ、眠っている間に、時々うなされるようです)
養母の答えを聞いた大天使の瞳に、ほんの少し陰りの色が浮かんだ。

「お散歩に行きたい!」
耳元で鈴の鳴るような声がして、大天使は我に返った。
「そうだね。行ってもいいかい、マイア?」
「ご存分になさいませ」
にっこりと、養母が微笑む。
緑の大天使は、幼女を抱いたまま、再び外へと玄関をくぐった。

洋館から少し離れた場所、少し小高い丘の上に、その巨木は一人たたずむ。
少女は、この場所がお気に入りだった。
紺碧の空から降り注ぐ日差しを、その大きな枝葉で柔らかい木陰に変えてくれる。
雨の降る日は、その冷たさから守ってくれる。
幹に寄りかかると、巨木は彼女に様々な物語を話してくれた。

大天使と少女は、その根元に座り、丘の下に見える木々のざわめきや、湖のきらめきを眺めていた。
少女が毎日の日課や、出来事を話し終わると、今度は大天使に話をねだる。幼女を膝に抱いて、大天使は少女が好みそうな話をした。

いつしか日が暮れ、眼下に広がる湖に、赤い日が沈みきった頃、

(あの話はしないのかい)
大天使の背中から、老いて枯れた声が囁いた。
その声を聞いた途端、エメラルドの瞳が、薄暗闇に硬直したかのように震えた。
(……樹よ。幼子にするべき話は選ぶものでしょう)
諭すように、大天使は答えた。もたれ掛かる樹の根元に、目を向けることなく、鋭い視線を投げる。
(昔話をしてやったまでだよ。そう。たとえ話のように)
「お父さま」
膝の上で、何も気付かない少女が、エメラルドの瞳を見上げている。
「あの星はなあに?」
幼い手が指差す方向を見上げると、空はすでに夜の帳を下ろし、明るい星を映し出していた。
少女の示す空には、ひと際明るく光る星がいくつも見える。だが、彼女が指で追っていたのは、明るい恒星ではなく、その横で消え入りそうに光る、小さな星だった。
「ああ……なんといったかな」
言葉を濁しながら、内心、彼は硬直した。

あの星を、この子は見分けているのか?

「わたし、あの星に行きたい」

無邪気な少女の声が、大天使の胸をえぐった。
内心の動揺を覆い隠すように、笑顔を閃かせて、彼は呟いた。
「……なぜ?」
「だって、行きたいんだもの」
少女の屈託のない笑顔が、ますます彼の胸に痛みを差し込む。

(樹よ、あなたは何を話したのですか)
(何も。ただ、魂は分かれる。分かれて求めあい、また出会うものだと。それだけだよ)
それだけ呟いて、巨木は何も言わなくなった。

……マーシア。
君には、何も知らせてはいない筈なのに。
何故、いとも簡単に、彼の星を見分けるのか。

胸の痛みを紛らわすかのように、大天使は膝の上の小さな身体を抱きしめた。
不意に抱きすくめられ、少女は驚いて大天使を見上げた。
「……お父さま……苦しい」

光の流れる量が、ぐんと上がった。
温かい波動が、胸に熱く感じて、マーシアは遠い記憶の淵から引き戻された。
ラファエルの胸の中で、スイスブルーの瞳を開く。
見上げると、彼女を見下ろすエメラルドの瞳が、悲しみの波に揺れていた。

行かせたくはなかった。
行かせないために、私はあなたをあそこに留めておいたのに。

強まる光の波と共に、緑の波動が少女の胸を揺らす。
絶えられず、彼女は再び、大天使の胸に顔をうずめた。

………ごめんなさい。
わたし、どうしても行きたかった。
ただ訳も分からず、どうしても行きたかった。

あの星へ。


この話、書き出すまでに随分悩みました。
降りてきたイメージが。。。こんなキレイなもんじゃなかったから。orz
あ、冒頭と最後のエネルギー交換の話ね。(^_^;)
もうね。。開き直って、18禁指定しようかと思ったくらい。。。がふっorz

続けて書いたのは、マーシアの過去の記憶、第一弾です。
多分、一番古い魂の記憶じゃなかろうか。
これは10代の頃からあったイメージ。当時はマーシア以外の人物は、アニメキャラのフィルターかぶってましたけどね~(笑)
あ、でも、マイアはオリジナルだった。なぜか名前も最初からマイアで。
調べたら、マイアってローマ神話で豊穣の女神。ギリシャ神話では「プレイアデス7姉妹」の長女の名前でした。
いや、そんなこと、当時は全く知らなかったよ。
無意識って恐ろしい。(笑)

とにかく、昔から小説にしたいと思っていたイメージと、今回ラファ先生が暴露した内容を重ね合わせてみると、こんなお話になっちゃった。ということです。はい。
まさかこんな形で、現実になろうとは。。。orz

つくづく不思議に思います。魂の記憶って。。。

えーと。。。次はどっちの彼女かこうかなぁ。。。

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