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風の小径 星紡夜話会員記事暫時全体公開 星紡夜話・カスタリアのほとり

【星紡夜話】カスタリアのほとり36・祝福

「では、彼らのコードを繋ぐということで、いいですね?」
ラファエルは、念を押すように金髪の大天使に問いかけた。
ミカエルは黙って頷く。

一夜明けて、ジェイは二人の大天使に、事の次第を報告するため、ステーションを訪れていた。
彼が目的としていたのは、単なる「結婚」ではない。
「上」に事情を通し、許可を得る必要があった。

「ですがまだ、弊害は残っていますよ」
「分かっています」
金茶の髪の青年は、静かに答えた。

弊害というなら、自分にもまだそれはある。
それでも、もう「独り」という立場に終止符を打つべきだと、彼は考えていた。

何よりも、彼女の為に。

青年が去った後、緑の大天使はもう一度、金髪の大天使を見やった。
「……本当にいいのですね。 ”彼女”を繋いでも?」
「一番大変なのは、彼の方だろうよ」
視線を合わせないまま、ミカエルは呟いた。

彼女は自分で、彼を選んだのだ。

「俺には、何も言う権利はない」
「本当に?」
「お前が、”あの二人”のコードを切り離したようにな」
ミカエルの冷めた声が、緑の大天使の微笑を、一瞬凍りつかせた。

「……痛いところを突きますね」

「おかえり」
カスタリアに戻ると、少女はもうベッドから起き上がって、家の用事をしていたようだった。
「具合はどうだ?」
「うん。もう熱は引いたみたい」
確かに、少女の顔色が良くなっているようだと見て取り、青年は安堵した。
少女は、彼が手にしている大きな紙袋に目をやる。
「……それなに?」
「お前の服」
「うそ!ホントに!?」
「ホント」
カスタリアに来てから、少しお洒落をするようになっていた少女は、思わぬプレゼントに瞳を輝かせた。
「あ、ありがと…」
「着てみろよ」
手渡されて、嬉しそうに包みを開けた彼女は、紙袋の中から現れた服に、一瞬固まった。
ずるずる、と、袋から、その長い服を引っ張り出す。

純白の、軽やかなシフォンに包まれた、絹のドレス。

「……あの……これ……?」
「気に入らなかった?」
「いや……そういうことじゃなくて……どうしたの、これ……」
「買ってきた」
「買ってきた、って…」
ミカエルたちと会った帰り、街に降りて「服」を物色していた彼は、それらしい衣装が並ぶ店のウィンドウを見つけて眺めていると、その店の主人に声を掛けられたという。
その”女主人”が、長い金髪の癖毛と綺麗に化粧をした顔に加えて、男性のようないかつさも兼ね備えていたので、彼は思わず、

「飲み屋と間違えたかと思った」

らしい。

まさか、彼がこんな「服」を買ってくるとは夢にも思わず、少女は呆然と白いドレスを見つめていたが、
「き、着てくる……」
頭の中が硬直した状態のまま、ぎこちなくドレスを抱えて、リビングを出て行った。

数分後、再びリビングのドアが、ほんの少しだけ開いた。
ソファに座っていた青年は、細いドアの隙間からこちらを覗き込む少女の気配を察して、思わず噴き出した。
「何やってんの。入れよ」
その声に観念したかのように、ドアは重々しく、ゆっくりと開いた。

開いたドアの先に立っていたのは、純白のドレスに身を包んで、おずおずと立っている藍色の髪の少女だった。

白いドレスの少女を見た途端、青年は目を見張って、思わず息を呑んだ。

デコルテと胸元が大きく開いた、ビクトリアン調の切り替えしに、淡いシフォンが重なって、甘さを添える。
腰周りはすっきりと締まって、裾にかけて緩やかに広がるスカート部分にも、軽やかなシフォンが幾重にも重なり、背後にかけて長く裾を引きずる、優雅なデザイン。
頭にはマリアベールを掛け、耳元に白い薔薇の花を添えてある。

「……ねえ、これ、ウェディングドレス、……だよね?」
もじもじと、恥ずかしそうに手を合わせながら、少女は顔を赤くして言った。
「……うん」
生返事をして、おもむろに立ち上がり、青年は少女に歩み寄ったかと思うと、
「……着替えてくる」
と、彼女の前を素通りして、自室へ消えていった。

「……は?」
予想していなかった反応に、少女の方はしばし呆然と立ち尽くしていた。

数分後。
再びリビングに現れた彼は、彼女と揃いの布地で仕立てられた、白い衣装を着ていた。
白い絹の詰襟の上着に、少し軽い、シフォン交じりのローブを、マントのように掛けている。

今度は、少女の方が、ぽかんと口を開けて青年を見ていた。

「……あー。…それって…」
王子様みたいだね。という言葉は、彼の腕が少女の手を掴んだ事で遮られた。
「行こう」
「ど、どこに?」
「外」
足早に、玄関へと手を引いて歩く彼の後を、ずるずるとドレスの裾を引きながら、彼女は付いて行った。慣れない衣装で動き辛いのだろう。
表に出て、思ったように少女が付いてこないことに気付き、彼は振り返った。
「抱いていこうか?」
「え! い、いい! 自分で歩くから!」
これ以上、恥ずかしいのは勘弁して欲しい。
正直なところ、今すぐにでもこの状況から逃げ出したいくらいだ。少女は恥ずかしさで顔から湯気が出そうだった。
とはいえ、今にも白いドレスの裾を踏んでしまいそうな彼女を見かねて、彼はもうひとつ提案してみた。
「羽で飛んでみる?」
「あ、羽……」
長いこと、使ってないなぁ。。。
背中を振り返るように見ながら、少女は先ほどからずっと戸惑い続けていた。
「ていうか、どこいくの?」
「庭がいいかな、と思って」
彼はあっさりと、簡潔に答える。
まさかこのまま、「結婚式」っていうのをやってしまうつもりなのだろうか。
「”善は急げ”っていうし」
彼女の戸惑いを察したように、また彼はあっさりと答えた。
言うと共に、彼の背中に白い羽が大きく広がる。
天使のそれと同じ色の、大きな翼。

少女は、自分の背中をちらと見て、決意したかのように目を瞑った。
と、大きく開いた白い背中に、金色の羽が広がる。
彼女の身長以上もあるかと思われる、柔らかい金の翼。

青年は、その翼の色を眩しく思いながら、少し目を細めた。

………そうか。
君は、今日は最後まで、「影」に徹するのだね。

彼は一瞬だけ、孔雀色の瞳を閉じ、次に開いたときには、いつもの笑顔に戻っていた。
彼女の手を引き、ゆっくりと空へ舞い上がる。
遅れて彼女が宙に浮き、翼に風を溜めながら、晴天の空をふわりと移動する。

やがて、色とりどりの薔薇が咲き誇る庭へと、二人は降り立った。

二対の輝く翼が、花弁を舞い上げ散らす中、青年は少女の両手を取って向かい合う。
金茶色の髪が、陽光に輝き、風に揺れるのを、眩しげに、少女は見ていた。

太陽の向こう、根源の空から、稲妻のように光が降りて、二人が繋ぐ両手と繋がる。
それが二人の腕を伝って、ハートに届くまでに、瞬きする時間も必要なかった。
ハートから全身に光が行き渡り、翼や髪にも金色の光が行き渡ると、彼らを中心に、光の渦を生じた。
風と、金の光と、薔薇の花弁がめくるめく渦を巻き、二人を取り囲む。
その美しい渦の中で、二人はお互いの瞳に、吸い込まれる感覚を覚えていた。

(……繋がりましたよ)

彼らの胸に、心話が飛び込む。
振り向くと、庭の片隅に、彼らの親しい大天使が二人、立っていた。

光の風にあおられ、彼らの髪もなびく。
「……大変なのは、お前の方かもな、ラファエル」
サファイアの瞳を真っ直ぐ彼らに向けたまま、ミカエルは呟いた。

光の中で微笑む彼女の、スイスブルーの瞳の中に、もう一人の少女を見る。
ラファエルのエメラルドの瞳には、彼の愛する少女の影が見えていた。

どうか、自分を大事にしておくれ。
あなたが幸せでいることが、癒しになるのだから。

緑の大天使は、祈るように瞳を閉じた。

この祝福が、彼らにとって、最良の結果となるように。


引っ張るなぁ。。。。先生。orz

花嫁の前を素通りしちゃうジェイ君、実に彼らしい。。。。ぶはは。(笑)

思うに。どーも彼、例の宇宙ステーションに行ってたんでないかと。
そこでミカエルとラファエルに会って、その後街に出て、式の衣装を探していたら、
とある高級ブティックに出くわしたと。(笑)
それがあの。。。。「あの人」のお店だったみたいなんですよ。。。
その時のやり取りがね、ぜーんぶ私に降りてきてるんですけど、
。。いやこれ、妄想じゃないの??( ̄▽ ̄;)
ていうか、怖くてご本人に確認を取る勇気がありません。。。。。orz
誰か、目撃した人、いませんか~?(笑)

ていうか、例の「ラファ先生自我崩壊事件」が起こったお話ですよ。今回。
あんなかっこ良く目閉じたりしてませんからね。。。ボロ泣きでしたからね。(笑)
いや、でも、ボロ泣きでした~なんて書いたら、コメディになっちゃうし。
この回は書いてて楽しかった~☆
いや~「裏話」で書きたいエピソード満載の今回です。(笑)
そのうち、どっかで書いちゃうかな~www

次回から、ちょびっとタイトルを変えて、心機一転。。。したいな☆

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