「では、彼らのコードを繋ぐということで、いいですね?」
ラファエルは、念を押すように金髪の大天使に問いかけた。
ミカエルは黙って頷く。
一夜明けて、ジェイは二人の大天使に、事の次第を報告するため、ステーションを訪れていた。
彼が目的としていたのは、単なる「結婚」ではない。
「上」に事情を通し、許可を得る必要があった。
「ですがまだ、弊害は残っていますよ」
「分かっています」
金茶の髪の青年は、静かに答えた。
弊害というなら、自分にもまだそれはある。
それでも、もう「独り」という立場に終止符を打つべきだと、彼は考えていた。
何よりも、彼女の為に。
青年が去った後、緑の大天使はもう一度、金髪の大天使を見やった。
「……本当にいいのですね。 ”彼女”を繋いでも?」
「一番大変なのは、彼の方だろうよ」
視線を合わせないまま、ミカエルは呟いた。
彼女は自分で、彼を選んだのだ。
「俺には、何も言う権利はない」
「本当に?」
「お前が、”あの二人”のコードを切り離したようにな」
ミカエルの冷めた声が、緑の大天使の微笑を、一瞬凍りつかせた。
「……痛いところを突きますね」
「おかえり」
カスタリアに戻ると、少女はもうベッドから起き上がって、家の用事をしていたようだった。
「具合はどうだ?」
「うん。もう熱は引いたみたい」
確かに、少女の顔色が良くなっているようだと見て取り、青年は安堵した。
少女は、彼が手にしている大きな紙袋に目をやる。
「……それなに?」
「お前の服」
「うそ!ホントに!?」
「ホント」
カスタリアに来てから、少しお洒落をするようになっていた少女は、思わぬプレゼントに瞳を輝かせた。
「あ、ありがと…」
「着てみろよ」
手渡されて、嬉しそうに包みを開けた彼女は、紙袋の中から現れた服に、一瞬固まった。
ずるずる、と、袋から、その長い服を引っ張り出す。
純白の、軽やかなシフォンに包まれた、絹のドレス。
「……あの……これ……?」
「気に入らなかった?」
「いや……そういうことじゃなくて……どうしたの、これ……」
「買ってきた」
「買ってきた、って…」
ミカエルたちと会った帰り、街に降りて「服」を物色していた彼は、それらしい衣装が並ぶ店のウィンドウを見つけて眺めていると、その店の主人に声を掛けられたという。
その”女主人”が、長い金髪の癖毛と綺麗に化粧をした顔に加えて、男性のようないかつさも兼ね備えていたので、彼は思わず、
「飲み屋と間違えたかと思った」
らしい。
まさか、彼がこんな「服」を買ってくるとは夢にも思わず、少女は呆然と白いドレスを見つめていたが、
「き、着てくる……」
頭の中が硬直した状態のまま、ぎこちなくドレスを抱えて、リビングを出て行った。
数分後、再びリビングのドアが、ほんの少しだけ開いた。
ソファに座っていた青年は、細いドアの隙間からこちらを覗き込む少女の気配を察して、思わず噴き出した。
「何やってんの。入れよ」
その声に観念したかのように、ドアは重々しく、ゆっくりと開いた。
開いたドアの先に立っていたのは、純白のドレスに身を包んで、おずおずと立っている藍色の髪の少女だった。
白いドレスの少女を見た途端、青年は目を見張って、思わず息を呑んだ。
デコルテと胸元が大きく開いた、ビクトリアン調の切り替えしに、淡いシフォンが重なって、甘さを添える。
腰周りはすっきりと締まって、裾にかけて緩やかに広がるスカート部分にも、軽やかなシフォンが幾重にも重なり、背後にかけて長く裾を引きずる、優雅なデザイン。
頭にはマリアベールを掛け、耳元に白い薔薇の花を添えてある。
「……ねえ、これ、ウェディングドレス、……だよね?」
もじもじと、恥ずかしそうに手を合わせながら、少女は顔を赤くして言った。
「……うん」
生返事をして、おもむろに立ち上がり、青年は少女に歩み寄ったかと思うと、
「……着替えてくる」
と、彼女の前を素通りして、自室へ消えていった。
「……は?」
予想していなかった反応に、少女の方はしばし呆然と立ち尽くしていた。
数分後。
再びリビングに現れた彼は、彼女と揃いの布地で仕立てられた、白い衣装を着ていた。
白い絹の詰襟の上着に、少し軽い、シフォン交じりのローブを、マントのように掛けている。
今度は、少女の方が、ぽかんと口を開けて青年を見ていた。
「……あー。…それって…」
王子様みたいだね。という言葉は、彼の腕が少女の手を掴んだ事で遮られた。
「行こう」
「ど、どこに?」
「外」
足早に、玄関へと手を引いて歩く彼の後を、ずるずるとドレスの裾を引きながら、彼女は付いて行った。慣れない衣装で動き辛いのだろう。
表に出て、思ったように少女が付いてこないことに気付き、彼は振り返った。
「抱いていこうか?」
「え! い、いい! 自分で歩くから!」
これ以上、恥ずかしいのは勘弁して欲しい。
正直なところ、今すぐにでもこの状況から逃げ出したいくらいだ。少女は恥ずかしさで顔から湯気が出そうだった。
とはいえ、今にも白いドレスの裾を踏んでしまいそうな彼女を見かねて、彼はもうひとつ提案してみた。
「羽で飛んでみる?」
「あ、羽……」
長いこと、使ってないなぁ。。。
背中を振り返るように見ながら、少女は先ほどからずっと戸惑い続けていた。
「ていうか、どこいくの?」
「庭がいいかな、と思って」
彼はあっさりと、簡潔に答える。
まさかこのまま、「結婚式」っていうのをやってしまうつもりなのだろうか。
「”善は急げ”っていうし」
彼女の戸惑いを察したように、また彼はあっさりと答えた。
言うと共に、彼の背中に白い羽が大きく広がる。
天使のそれと同じ色の、大きな翼。
少女は、自分の背中をちらと見て、決意したかのように目を瞑った。
と、大きく開いた白い背中に、金色の羽が広がる。
彼女の身長以上もあるかと思われる、柔らかい金の翼。
青年は、その翼の色を眩しく思いながら、少し目を細めた。
………そうか。
君は、今日は最後まで、「影」に徹するのだね。
彼は一瞬だけ、孔雀色の瞳を閉じ、次に開いたときには、いつもの笑顔に戻っていた。
彼女の手を引き、ゆっくりと空へ舞い上がる。
遅れて彼女が宙に浮き、翼に風を溜めながら、晴天の空をふわりと移動する。
やがて、色とりどりの薔薇が咲き誇る庭へと、二人は降り立った。
二対の輝く翼が、花弁を舞い上げ散らす中、青年は少女の両手を取って向かい合う。
金茶色の髪が、陽光に輝き、風に揺れるのを、眩しげに、少女は見ていた。
太陽の向こう、根源の空から、稲妻のように光が降りて、二人が繋ぐ両手と繋がる。
それが二人の腕を伝って、ハートに届くまでに、瞬きする時間も必要なかった。
ハートから全身に光が行き渡り、翼や髪にも金色の光が行き渡ると、彼らを中心に、光の渦を生じた。
風と、金の光と、薔薇の花弁がめくるめく渦を巻き、二人を取り囲む。
その美しい渦の中で、二人はお互いの瞳に、吸い込まれる感覚を覚えていた。
(……繋がりましたよ)
彼らの胸に、心話が飛び込む。
振り向くと、庭の片隅に、彼らの親しい大天使が二人、立っていた。
光の風にあおられ、彼らの髪もなびく。
「……大変なのは、お前の方かもな、ラファエル」
サファイアの瞳を真っ直ぐ彼らに向けたまま、ミカエルは呟いた。
光の中で微笑む彼女の、スイスブルーの瞳の中に、もう一人の少女を見る。
ラファエルのエメラルドの瞳には、彼の愛する少女の影が見えていた。
どうか、自分を大事にしておくれ。
あなたが幸せでいることが、癒しになるのだから。
緑の大天使は、祈るように瞳を閉じた。
この祝福が、彼らにとって、最良の結果となるように。
引っ張るなぁ。。。。先生。orz
花嫁の前を素通りしちゃうジェイ君、実に彼らしい。。。。ぶはは。(笑)
思うに。どーも彼、例の宇宙ステーションに行ってたんでないかと。
そこでミカエルとラファエルに会って、その後街に出て、式の衣装を探していたら、
とある高級ブティックに出くわしたと。(笑)
それがあの。。。。「あの人」のお店だったみたいなんですよ。。。
その時のやり取りがね、ぜーんぶ私に降りてきてるんですけど、
。。いやこれ、妄想じゃないの??( ̄▽ ̄;)
ていうか、怖くてご本人に確認を取る勇気がありません。。。。。orz
誰か、目撃した人、いませんか~?(笑)
ていうか、例の「ラファ先生自我崩壊事件」が起こったお話ですよ。今回。
あんなかっこ良く目閉じたりしてませんからね。。。ボロ泣きでしたからね。(笑)
いや、でも、ボロ泣きでした~なんて書いたら、コメディになっちゃうし。
この回は書いてて楽しかった~☆
いや~「裏話」で書きたいエピソード満載の今回です。(笑)
そのうち、どっかで書いちゃうかな~www
次回から、ちょびっとタイトルを変えて、心機一転。。。したいな☆
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