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【星紡夜話】カスタリアのほとり34・孤独

ある夜、少女はうなされて目が覚めた。
ベッドの上に起き上がり、がくがくと震える肩を両手で抱える。

……行ってしまう。また居なくなっちゃう。

震えが止まらない身体を押さえ込み、今すぐにでも彼の部屋へ駆け込みたい衝動を抑える。
先日、彼の部屋へ押しかけて迷惑を掛けたばかりだ。これ以上、心配させたくはなかった。

ジェイはちゃんと傍に居る。ちゃんとこの家に居る。

呪文を唱えるように、少女はずっと自分に言い聞かせていた。
押さえ込もうとすればするほど、感情の波は胸に押し寄せてくる。
スイスブルーの瞳に、涙がにじんだ。
堪えきれず、蚊の鳴くような声を喉から絞り出すように、彼女は泣いた。

何故こんなにも、不安になるのだろう。
今の自分は幸せなのに。

過去のしがらみから開放され、ようやく手に入れた「今」。
マーシアのせいじゃない。何かがまだ、自分の中に引っかかっている。
誘発されたのかもしれないが、今のこの不安は、確かにメイシンのものだった。

声を殺しながら涙していると、頭の中で彼の声が、突然響いた。

(どうした?)

感知された。
心話で問いかけてきたジェイに驚きながらも、少女は首を振った。
(……なんでもない)
(……行ってもいいか?)
少女は、勢いよく藍の髪を振って拒否した。
(大丈夫……)
そのまま、ひざを抱えうずくまる。

ほら、ちゃんといるじゃない。彼はちゃんと傍に居る。
もう泣かなくていいってば。泣くなってば……

思いとは裏腹に、零れ落ちる涙の量が増えていく。

ふわり、と、温かい気配が少女の背中を包んだ。
驚いて、泣き腫らした目を上げると、すぐ横に金茶色の髪が見える。
いつの間にか、青年は少女のすぐ横に座り、肩を抱いてくれていた。
「ごめん。勝手に入って」

…女の子の部屋に、ポータル使って入るなんて、犯罪だよ……。

いつもならすぐに口を突いて出る言葉が、胸につかえて出なかった。
代わりに、涙ばかりが溢れ出る。
彼の腕の温もりが、余計に涙を増やした。

(さみしい。さみしい。さみしい…)

わけも無く、流れてくる感情に翻弄されて、少女は青年の胸にしがみついた。

こんなに近くに居るのに、何故寂しいのだろう。
抱きしめられていても、その寂しさは癒えることが無かった。

翌朝、少女は熱を出して寝込んでいた。
熱のこもった頭で、彼女はそれでも何かを考えていた。

過去の鮮明なビジョンを見た。
それが、彼女の涙の原因だった。

顔色ひとつ変えず、敵を切り刻む漆黒の少女の記憶。
人を斬り刻むときの恍惚感。
自分が傷つき、血を吐いて壊れていくほど、むき出しになる闘争心。
その高揚がまた快感になり、目の前に居る者を斬り裂き続ける。
死の快楽の、無限のループが螺旋を描いて、闇の底へと落ちていく。

心の深淵に、忘れるほど深く沈めていた、あの時の感情が、彼女を翻弄していた。

あの時の自分は、どれだけ狂っていたのだろう。
「今」の自分の感覚で、過去の自分を見るとき、底なしの孤独と不安感が彼女を襲う。

感情を可能な限り殺すこと。
自らの行為と、それを感知する能力を完全に切り離すこと。
それ以外に、彼女の精神の均衡を保つすべは無かった。

ベッドの中にうずくまり、月明かりに照らされるのを避けるように、少女は身を縮めて震えていた。

昼間は何をするでもなく空を見上げ、夜になると独り泣き続ける。
そんな日々が続いた。
ジェイはただ静かに、彼女の身の回りの世話をし続けた。
少女は放っておくと、独りでただ泣き続け、自らの波動を下げ続けていくようだった。
彼は見かねて、夜になると自ら少女の部屋へ様子を見に行くようになった。
少女が自ら、口を開くのを待つように、彼は静かに、うずくまる彼女の傍に寄り添っていた。


さて。今回のお話は、例の「エヴァ」を見た時に起こった出来事です。orz
(※2020年2月21日追記※ 当時、ヱヴァンゲリヲン新劇場版の初号機暴走シーンを見て、過去生(花木蘭(ムーラン)の記憶)のフラッシュバックを起こし、地上の私も丹田にダメージを受けました。多分10分くらい腹を殴られたような痛みと心理的ショックで起き上がれなかった。)
なんか、身体に熱こもってるわ~。。特に首から上~。。。と思ってたら、上の人、熱出してぶっ倒れてたようで。(笑)
次は、その時思い出した彼女の「感情」をメインに書いていこうと思います。

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