すっかり気力が萎えていた。
ソファにうずくまり、ひざを抱えて背もたれに頬を預ける。窓の外に視線を向けると、東から夕闇が迫っていた。沈みかけの太陽が、西の空を紅く燃やす。
真ん中で半分に割ったような空。
まるで自分のようだと、少女は虚ろに思った。
ダイニングテーブルに、ことり、と音が響いた。
夕食の盛られた皿が、次々と並べられていく。
皿を並べていた青年に、少女はか細い声で謝った。
「ごめん……何も出来なくて」
「氣にするな」
横顔が、金茶色の髪に少し隠れて、彼の瞳は見えなかった。
夕食の準備が整うと、ジェイは彼女の手を取って席に着かせる。
相変わらず、美味しそうだな…。
食欲は無かったが、少女は感嘆せずにいられなかった。そして自分が何も出来ない事実を突きつけられたようで、気力を再び削がれる。
「ジェイって、料理上手いよね……どこで覚えたの?」
「さぁ……随分昔かな」
気力の湧かない右手でスプーンを持ち上げ、少女は料理を口に運ぶ。
一口だけ口に入れ、しばらくゆっくりと噛んでいた。
美味しいはずなのに、味が分からない。
「メイ、済まなかった」
彼の低い声で、少女は重い頭を上げた。
「……なにが?」
言ってから、彼女は藍色の髪を小さく振った。
「……ジェイのせいじゃないよ」
自分の中に原因があるのは分かっている。だが、見当がつかない。
彼女の中のもう一人の自分が、揺らめいているのは分かる。
何故そんなに悲しいの。これ以上何を望むの。
問いかけても、彼女は答えなかった。
代わりに、メイシンの感情は、知らず知らず水面下に沈んでいくようだった。
紺碧の闇に星明りが煌めく。
灯りを落とし、眠りに着こうとした青年の部屋に、ノックする音が響いた。
こんな時間に彼女が来るのは珍しい。昼間のことがあったから、眠れないのだろう。
青年がドアを開けると、白い顔の少女が立っていた。
いつもの快活な表情は無く、思い詰めたような瞳で、彼を見上げている。
白いスリップドレスが、微かな灯りに映えていた。
彼は静かに、少女を部屋へ招き入れた。
灯りをつけようと部屋の奥へ進んだ彼の耳に、すっと衣擦れの音が聞こえた。
振り向くと、藍の髪の少女が、祈るようにひざまづいていた。
捧身の礼。
彼は碧い目を見張った。
いつから入れ替わっていたのだろう。
青年は、密かに悔いた。彼女の一面にばかり氣を取られていた事に。
祈るようなスイスブルーの瞳を、直視することが出来なくなって、彼は窓の外に視線を逸らせた。
ゆっくりと、ベッド脇の窓に近づき、ガラス扉を開け放つ。
明るいと思っていたら、窓いっぱいに広がるほどの満月が、天高く登っていた。
涼しい風が、青年の金茶の髪を揺らす。
月明かりに、その髪を輝かせながら、彼は振り向いた。またゆっくりと彼女の前まで歩み寄り、ひざまづく。
青年は、少女の細い肩を抱え込み、しっかりと抱き上げた。
立ち上がると、再びベッドの前へ歩み寄る。
彼は白いシーツの前で、彼女を抱えたまま、しばらく動かなかった。
スイスブルーの瞳が、不安げに金茶の髪を見上げる。まっすぐに窓の外を見つめていた彼は、軽く弾みをつけて、いとも簡単にベッドを飛び越え、窓枠に着地した。
あまりの身軽さに、重力すら感じさせない。
彼は窓枠に足を一度掛けると、そのまま勢いよく、彼女を抱えて窓の外へ飛び出した。
白い羽が、彼の背中に大きく広がる。
バルコニーを飛び越え、少女が丹精込めて育てた薔薇の咲き誇る庭へ、青年は静かに降り立った。
白い翼の起こした風に、薔薇の花弁が幾重にも舞い上がる。
透明な花弁が、月明かりに煌くのを、しばし彼は見ていた。
少女には、その幻想的な景色を見る余裕が無かった。横目で花弁をちらと見て、青い瞳は不安げに、青年の顔を見上げる。
少女に視線を落とした、青年の碧い瞳が優しく笑った。
「見てごらん」
彼の視線の先を追うと、庭を全て照らし出すほどに明るく輝く満月が、彼女の碧い瞳に満ちた。
柔らかい波動の月明かりを浴びて、彼女は身震いした。その美しい月を見ながらも、少女の不安は消えない。
白い肌が微かに震えているのが、彼の胸にも伝わってくる。
「…………ごめんよ」
謝る声を聞いて、少女は視線を彼に戻した。
少し悲しげな、後悔にも似たような色を、碧い瞳に浮かべて、青年は彼女を見ている。
「ごめんよ、マーシア」
……君だったんだ。心を開けずに泣いていたのは。
はらはらと、青い瞳から涙が零れ落ちた。
「マーシア」
その一言を、待っていたかのように。
静かにすすり泣く、少女の涙を胸に感じて、青年は彼女を抱く腕に力を込めた。
風が花弁を舞い上げ、彼女に降り注ぐのを守るように、彼の白い翼は、大きく開いて彼女を包み込む。
月が静かに、二人を照らす庭で。
一番台詞の少ない回じゃなかろうか。(笑)
台詞に頼れない分、表現力に骨を折る。orz。。いつも以上に時間を掛けてくたびれました。。
いや~でもキレイでしたよ、月明かりの庭。私の表現力でどこまで伝わったかなぁ。(笑)
書いてるときって、やっぱりトランス状態に入ってるんだなぁ。。コレかいてる途中に、親戚から電話かかってきて、声がでなかった。(笑)今回は特に、降りてきたイメージを懸命に拾おうとしてたからかも。(^_^;)
いや。彼女が鬱モードだったからかもしれん。(爆)
こりゃ、過去生の時と同じく、ささささと書いてしまうべきかな。
でももう、集中力限界。マジくたびれた。。。orzふぅ。
彼女の落ち込みモードは、もうちっと続く。
「捧身の礼」ってのは、造語です。彼女、ひざまづきながら「全て捧げたい」って乙女チックなことをほざいてたので、すかさず却下させていただきました。( ̄▽ ̄;)
やめて。恥ずかしいから。orz
。。。。という、プチ裏話。(笑)