すがすがしく晴れ渡る空に、緑の木々がそよぐ下。
覚えた魔法陣の実戦訓練をするため、メイシンとジェイは再び、広場に張られた結界の中に立っていた。
「念のために言っとくけど、お前が覚えたのは防御の魔法陣だからな」
「………どーいう意味だよ」
攻撃するなって言いたいのか?
自分への信用の無さに歯噛みしながら、少女は金茶色の青年の頭を睨み付けた。
”盾”を投げつけるなってことだよ。
ニヤリと笑って、青年は剣先から稲妻をほとばしらせた。
咄嗟に、少女は剣圧でそれを弾き返す。
「何してる。魔法陣を使え」
「そんな、とっさには無理だよ!」
それをマスターするのが今回の目的だ、と諌められ、メイシンは不貞腐れてため息をついた。
「あい、あいさー……やりゃいいんでしょ」
ええと、と、左の指をくるくると動かしながら、陣を繰り出すタイミングをシュミュレーションする。
ごにょごにょと、独り言を呟く少女の姿に苦笑して、青年は再び剣を構えた。
「準備できたか? いくぞ」
再び剣先から稲妻が飛んでくる。
陣を描き切れず、少女は寸でのところでそれをかわした。
彼が繰り出しているのも、魔法陣。同じ魔法なら、陣さえ描ければすぐに相殺できるはず。なのだが。
どうしても、タイミングが合わないのだ。
いつものように戦えない苛立ちが、少女をどんどん不機嫌にしていく。
青年が連続して打ち込み始めると、その苛立ちはピークに達した。
陣を描こうとすると、剣の攻撃が遅れる。
タイミングが瞬間ずれることに耐えられず、咄嗟に右手から氣をほとばしらせ、振り下ろそうとした。
途端、その手に碧い魔法陣が絡みつき、エネルギーを相殺して散らせてしまった。
「闘氣は使うな。何のための訓練だと思ってる」
青年の言葉に止めを刺され、少女はついに剣を放り投げて、その場に座り込んでしまった。
「もうやだ! イライラする! タイミングずれるんだもん!」
「それは”野生の勘”で補うんだな」
……簡単に言ってくれるじゃん。
苦虫を噛み潰しながら、あぐらをかいて青年を上目遣いで睨み付ける。
煮詰まった少女の気持ちは分からないでもない。だが。
深い息を吐いて、青年は静かに言った。
「お前の戦い方を見てるとな、心配なんだよ」
「なにがよ?」
「自分のエネルギーが底なしだって思ってるのか?」
「そんなわけないだろ」
「なら、エネルギーを枯渇させるような戦い方はやめろ」
枯渇。……そうか。
青年の口から出た言葉が、少女の胸に落ちた。
彼は少女の戦い方を全て知っている。彼女がこのような戦い方しかできないのも承知の上で、今更のようにこんな訓練をする理由が、やっと少女の腑に落ちた。
自分が「被験者」だった頃から、そんな風に思われていたのかな。
深く大きなため息をついて、涙腺がゆるみそうになるのを、少女は堪えた。
「どうする? もう一度やるか、今日はもうやめるか」
間合いを置いて立っていた青年の声が、彼女の心に再び闘志の火を燈す。
少女の青い瞳が、青年のピーコックグリーンの瞳を見据えた。
「……やる」
それからは、少女の口から後ろ向きな言葉が出ることはなかった。
タイミングを掴むまで、ただひたすら打ち込みと同時に陣を描き続ける。
身体でしか覚えられないなら、何度でも教え込めばいい。
彼女の無意識の部分が、その陣を描くことを受け入れ始めたとき、青年から放たれたエネルギーの前に、少女の描いた金色の魔法陣が展開された。
その時初めて、スイスブルーの瞳は「防御の陣」がエネルギーを跳ね返すところを見た。
「……できた」
攻撃することも忘れ、その場に立ち尽くして、呆然と少女は呟いた。
「出来たじゃないか!」
青年の声が大きく飛び込んできて、はっと我に返ると、いつの間にか少女の視界には金茶色の波打つ髪が広がっていた。
えらいえらい、と言いながら、青年は少女を抱いて、藍色の髪をくしゃくしゃとかき混ぜている。
「ち、ちょっと! やめてよもう~。大袈裟な~……」
急に抱きつかれて戸惑い、恥ずかしいのを堪える少女の胸に、彼の声が呟く。
これでようやく、あの歪んだ笑みと決別できる。
限界を超えることでしか実力を発揮できなかった少女に、彼はどれだけ心を砕いてきたのだろう。
また瞳が濡れそうになるのを堪えながら、メイシンは、青年の広い背中を、そっと抱き返した。
ありがとう、佐守。
。。。胸苦ひ~です。。離してくらさいジェイ君。(笑)
ずっと氣になってたんでしょーね。メイシンめちゃくちゃな戦いかたしてたみたいだから。(^_^;)
さ~、ギター教室に間に合った! 行ってきまーす!(笑)
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