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【星紡夜話】みなもの光6・時機合い

すがすがしく晴れ渡る空に、緑の木々がそよぐ下。
覚えた魔法陣の実戦訓練をするため、メイシンとジェイは再び、広場に張られた結界の中に立っていた。

「念のために言っとくけど、お前が覚えたのは防御の魔法陣だからな」
「………どーいう意味だよ」
攻撃するなって言いたいのか?
自分への信用の無さに歯噛みしながら、少女は金茶色の青年の頭を睨み付けた。

”盾”を投げつけるなってことだよ。

ニヤリと笑って、青年は剣先から稲妻をほとばしらせた。
咄嗟に、少女は剣圧でそれを弾き返す。
「何してる。魔法陣を使え」
「そんな、とっさには無理だよ!」
それをマスターするのが今回の目的だ、と諌められ、メイシンは不貞腐れてため息をついた。
「あい、あいさー……やりゃいいんでしょ」
ええと、と、左の指をくるくると動かしながら、陣を繰り出すタイミングをシュミュレーションする。
ごにょごにょと、独り言を呟く少女の姿に苦笑して、青年は再び剣を構えた。
「準備できたか? いくぞ」
再び剣先から稲妻が飛んでくる。
陣を描き切れず、少女は寸でのところでそれをかわした。

彼が繰り出しているのも、魔法陣。同じ魔法なら、陣さえ描ければすぐに相殺できるはず。なのだが。
どうしても、タイミングが合わないのだ。
いつものように戦えない苛立ちが、少女をどんどん不機嫌にしていく。

青年が連続して打ち込み始めると、その苛立ちはピークに達した。
陣を描こうとすると、剣の攻撃が遅れる。
タイミングが瞬間ずれることに耐えられず、咄嗟に右手から氣をほとばしらせ、振り下ろそうとした。
途端、その手に碧い魔法陣が絡みつき、エネルギーを相殺して散らせてしまった。

「闘氣は使うな。何のための訓練だと思ってる」
青年の言葉に止めを刺され、少女はついに剣を放り投げて、その場に座り込んでしまった。
「もうやだ! イライラする! タイミングずれるんだもん!」
「それは”野生の勘”で補うんだな」

……簡単に言ってくれるじゃん。

苦虫を噛み潰しながら、あぐらをかいて青年を上目遣いで睨み付ける。
煮詰まった少女の気持ちは分からないでもない。だが。

深い息を吐いて、青年は静かに言った。
「お前の戦い方を見てるとな、心配なんだよ」
「なにがよ?」
「自分のエネルギーが底なしだって思ってるのか?」
「そんなわけないだろ」
「なら、エネルギーを枯渇させるような戦い方はやめろ」

枯渇。……そうか。

青年の口から出た言葉が、少女の胸に落ちた。
彼は少女の戦い方を全て知っている。彼女がこのような戦い方しかできないのも承知の上で、今更のようにこんな訓練をする理由が、やっと少女の腑に落ちた。

自分が「被験者」だった頃から、そんな風に思われていたのかな。

深く大きなため息をついて、涙腺がゆるみそうになるのを、少女は堪えた。
「どうする? もう一度やるか、今日はもうやめるか」
間合いを置いて立っていた青年の声が、彼女の心に再び闘志の火を燈す。
少女の青い瞳が、青年のピーコックグリーンの瞳を見据えた。

「……やる」

それからは、少女の口から後ろ向きな言葉が出ることはなかった。
タイミングを掴むまで、ただひたすら打ち込みと同時に陣を描き続ける。
身体でしか覚えられないなら、何度でも教え込めばいい。

彼女の無意識の部分が、その陣を描くことを受け入れ始めたとき、青年から放たれたエネルギーの前に、少女の描いた金色の魔法陣が展開された。

その時初めて、スイスブルーの瞳は「防御の陣」がエネルギーを跳ね返すところを見た。

「……できた」
攻撃することも忘れ、その場に立ち尽くして、呆然と少女は呟いた。
「出来たじゃないか!」
青年の声が大きく飛び込んできて、はっと我に返ると、いつの間にか少女の視界には金茶色の波打つ髪が広がっていた。

えらいえらい、と言いながら、青年は少女を抱いて、藍色の髪をくしゃくしゃとかき混ぜている。
「ち、ちょっと! やめてよもう~。大袈裟な~……」
急に抱きつかれて戸惑い、恥ずかしいのを堪える少女の胸に、彼の声が呟く。

これでようやく、あの歪んだ笑みと決別できる。

限界を超えることでしか実力を発揮できなかった少女に、彼はどれだけ心を砕いてきたのだろう。

また瞳が濡れそうになるのを堪えながら、メイシンは、青年の広い背中を、そっと抱き返した。

ありがとう、佐守。


。。。胸苦ひ~です。。離してくらさいジェイ君。(笑)

ずっと氣になってたんでしょーね。メイシンめちゃくちゃな戦いかたしてたみたいだから。(^_^;)

さ~、ギター教室に間に合った! 行ってきまーす!(笑)

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