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風の小径 星紡夜話会員記事暫時全体公開 星紡夜話・カスタリアのほとり

【星紡夜話】カスタリアのほとり27・再生

胸を押さえ込み、メイシンは涙していた。
胸の芯は熱く、涙は止め処なく流れる。

(。。。。済まなかった)

胸の中の石が、悔いるように呟いた。

。。。ちがうよ。

胸で生まれた言葉が、喉まで上がってこなかった。

彼が最後に勝ち得た、「愛している」という言葉が、一番胸に響いて、彼女は涙を止められないのだ。

今ならわかる。
彼がその後の転生で、何を選んだのか。

幸せになってはいけない。
本当の愛を得てはいけない。

自分を罰する人生を、ひたすら選び続けたのだろう。

でも、もう終わりにしよう。
だって彼の魂は、ずっとわたしを呼んでいたのだから。

罪を負うように彼女を避け続けていた彼が、本心で彼女に会いたいと叫んだとき、彼女の前に現れたが、きっとあの、アクアマリンの青年だったのだろう。

「。。。終わりにしよう、佐守。もうあなたが償うことは、何もないよ」
やっと、それだけを声に出して呟いた。

彼はそれから、ずっと黙ったまま。
でも、きっともう大丈夫。
メイシンは、胸の中の碧い魂に囁き続けた。
「ヒーリングセンターに行って、ラファエルに戻してもらおう。きっともう、すぐに回復できるから」

彼は答えなかった。
石を取り出そうとすると、ピーコックグリーンの石は寂しげな波動を、彼女の胸の中で広げる。
離れたくないんだ。
彼の気持ちは身に染みていた。彼女とて、それは同じだったから。

それでも、彼女は彼を勇気付けるように語り続ける。

。。。ほら。神様の創造を思い出してみて。
元はみんな、私もあなたも、この世界の全てが、ひとつの魂だった。
でも、あまりにも近すぎると、実感できないでしょ。
どれだけ深い愛を持っていたとしても、一人ぼっちでは愛せない。
見て、触れて、与えつつ、与えられたい。

あなたはわたしの中にいる。ひとつである実感は、とても心地よい。
けど、わたしはあなたに、もっと触れたい。
あなたの顔を見て笑いたい。

我がままかな、とも思う。
だが、これが我がままというものなら、きっとこの宇宙を創造した者が我がままなのだ。

もう一度、あの姿を見せて欲しい。
わたしを愛してくれた、あの鈍感な男の姿を。

それからもしばらくは、ずっと彼を納得させる方法を、メイシンは考えていた。
無理やり引き離したのでは、再び傷が残るだろう。何か方法はないものか。
思い詰めるように考え続けていたメイシンが、ふと脳裏に閃いたことを口にした。

「わたしの石と、佐守の石、半分に分けて、交換したらどう?」
突拍子も無い思い付きだった。だが彼女には、これ以上の良策は無いように思えた。

彼女の胸が、焼けるような熱さを感じて、光を発したようだった。
彼の魂の熱を感じながら、メイシンは静かに微笑んだ。

これで、寂しくないよね。

スイスブルートパーズの瞳に、決意の色が浮かんだ瞬間だった。

ヒーリングセンターへは、ポータルを使ってみた。
以前彼女が寝かせられていた、白い医療機器の並ぶ部屋。
その部屋で仕事をしていたらしい、緑の大天使の前に、藍色の少女はふわりと姿を現した。
動じる様子も無く、大天使ラファエルは少女に微笑む。

「お久しぶりですね、どうですか調子は?」
言わなくても知ってるくせに。

不貞腐れた台詞を飲み込んで、少女は本題を口にした。
「魂の石を、分割することは出来る?」
少女の台詞を耳にした瞬間、ほんの一瞬だけ、穏やかなエメラルドの瞳に、鋭い光が走った。
彼女が何をしようとしているのかを、その一言で全て読み取ったかのように、大天使の表情が真摯に強張る。
「二人とも。。。。承諾しているようですね」
彼女の胸の中の、碧い魂を見透かすように、エメラルドの瞳は目を細めた。
そしてすぐ、いつもの穏やかな表情に戻ると、大天使は少女に告げた。
「マスター達にも相談してきますから、少し待っててください」

緑色の大天使が彼女の前から姿を消してから、待ったと感じたのは、ほんの数分だった。
再び目の前に現れたラファエルを、メイシンは不安げに見上げる。
マスター達の回答は、こうだったらしい。

「いいんじゃない? どーせ君たち、運命共同体だし」

マスターらしからぬあまりの軽さに、メイシンは拍子抜けした。
とにかく、許可をもらえたことに、彼女はほっと胸をなでおろした。
残る不安は、石の分割の割合なのだが。
「本当は分割するより、丸ごと入れ替えたほうが、施術的には楽なんですけどね」
そうなの? と首を傾げる少女を見下ろして、ラファエルは続けた。
「二人とも、しばらく入院することになりますから、気負わず楽にしていて下さい」
エメラルドの瞳が、にっこりと彼女に微笑み、藍の少女をヒーリングポッドへと進ませた。


長くなってきたので、一旦切ります。
誤解の無いように付け加えておきますと。
魂の核となる、いわゆる「石」は、よっぽどの理由がない限り、人に与えたり割ったりしちゃいけないものだと思うのです。
じゃなんで、メイシンの場合は許可されたのか、ていうのは、次のお話を読んでいただくとして。

駄々こねてんじゃねーよーって感じなのです。全くまったく。(笑)

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