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【星紡夜話】みなもの光31・祈望

ユリウスが、闇を抱えたまま、数え切れないほどの転生を繰り返してきた理由。
彼はメイシンを殺した絶望感に苛まれ、自分は愛される資格がないと思い込だその隙を、「魔」につけこまれた。
寂しさを満たしてやると言いながら、魔は彼にエネルギーを吸い取らせる。
マーシアをエネルギー供給源として掴まえて、彼を介してずっとエネルギーを送らせ続けていた。
そのマーシアがエネルギー供給を絶ってしまった事で、ユリウスもエネルギーが足りなくなる。そのうえ絶望感で生きる気力を削がれていると、根源からのエネルギー供給をも拒否してしまい、彼は先ほどまでロスト寸前であったのだ。

マーシアは、恐らく、自分から志願したのだろう。
彼を見過ごすことが出来なかったのだろう。
普通なら、エネルギー源となって吸い取られたほうも、魂を維持できずにロストする。
命をも削るような状態で、それでも今まで、彼女は供給を絶つことをしなかった。
彼がこれまで、長い転生を生きてこられたのは、ひとえに、
辛抱強く、彼が闇から抜け出すのを待ち続けた、彼女の愛ゆえだったのだろう。

メイシンがラファエルに案内されて再びユリウスに会ったとき、彼はヒーリングセンターの白い個室で、医療用の白衣に着替え、ベッドに身を起こしていた。
「ユーリ」
「触るな」
彼の手を取ろうとしたメイシンを、拒むように彼は言う。
今はまだ、エネルギー回路が闇へと繋がったままだ。少しでもエネルギーを吸い取らないよう、ユリウスは彼女を避けた。
事情を飲み込むと、メイシンはベッドの傍らに椅子を引き寄せて座る。
「済まなかった、メイ」
「何言ってんの。元気になろ? 手術したら、元に戻るんだから」
ユリウスは即答しなかった。

自分は元の身体に戻る資格がない。
ここに至るまでに、犠牲にしてきた魂を思えば。
そしてまたきっと、自分は彼女を傷つける。

それは今まで、彼を闇に押し留めていた理由のひとつだった。

「俺はお前を傷つけたくない」
「あたし、そんなに弱くないよ」
メイシンは笑った。

手術して、元の身体に戻っても、過去がなくなるわけではない。

辛い過去も残る。けど、
大切なことを学んだ過去だって残るんだ。
元気になったら、元通り以上になるんだよ。

彼女の胸のうちから流れてくる声を聞きながら、自分の手のひらを、彼は見つめていた。

この手でどれだけのものを掴んできたか。
この手でどれだけの命を奪ってきたか。
この手で、どれだけの愛を奪ってきたのか。

自分はここに居てもいいのか。

何度転生を繰り返しても、答えを得られない問いを抱えてきた。
その問いに初めて答えを与えてくれたのは、彼が一番欲していた存在。
彼女だけだった。
彼の問いに、答えを埋めてくれたのは。

「あたしは……あんたがどんな姿になったって、闇の中にいたって、あんたが大好きなんだよ」
涙を堪えるような声で、メイシンが呟いた。
「手術しなくったって、あたしはあんたのツインだよ。どこまでも一緒なんだから…」
胸から込み上げるものを押さえきれなくなり、やっとの事で、メイシンは言葉を繰り出した。
「…あたし……あんたに愛されて死ねるんなら、それでもいい……」

ここに居てください。
どんな姿でもいい。
ここに居てください。

白いベッドに泣き伏してしまったメイシンの慟哭を、身につまされる思いで、彼は聞いた。

自分は二度と、彼女を傷つけない。

ドアの前に立っていた、緑の大天使を見つめて、ユリウスは決意と共に口を開いた。
「……お願いします」
ラファエルは静かに頷いた。
「その決意に、感謝しますよ。……マーシアの為にもね」

手術は翌日に行われることになった。
直前まで、彼のエネルギー総量を出来る限り引き上げるため、ヒーリングポッドに入り、ユリウスは眠っている。
メイシンはその傍らに座り、片時も離れようとしなかった。
「あなたも休憩なさい。本番はこれからですよ」
「大丈夫。ちゃんとエネルギー補給してるから」
ラファエルの呼びかけに、メイシンは笑顔で答えた。
彼女はツインコードから彼に流れるエネルギーを、根源から補っている状態だった。
ユリウスが闇から抜け出してからは、エネルギーを吸い取られる感覚もなくなって、彼女自身も安定している。
ポッドの中の彼の寝顔を見つめながら、メイシンはおもむろに呟いた。
「マーシアは……なんでユリウスに、エネルギー渡そうと思ったのかな」
少しの間をおいて、大天使から答えが返ってきた。
「…本人達のニーズに合致したんでしょうね」
「マーシアに、なんか得になるものがあったの?」
ラファエルは答えなかった。
「これって、実験なの?」
それは彼女が、これまで生きてきた生を振り返って思うことなのかもしれない。
知らない間に使われていたことなど、いくらでもあったのだ。
全ての過去を思い出すことの出来ない彼女が、今思いつく限りのデータを集めて出した問いはこうだった。
「あたし達は……実験に使われるために生まれたの?」
「違いますよ」
今度はすぐに、キッパリとした答えが返ってきた。
「この世界に闇が生まれたとき、私達はそれを埋める側となった。その方法を試行錯誤した結果が、今の世界だとしたら…」
「あんたってさ」
大天使の言葉をさえぎるように、メイシンは口を開いた。
「たとえ話が好きなんだね」
ラファエルは、彼女の率直な言葉に苦笑した。
「……ミカエルほど直球じゃありませんね」
早く休みなさい、と言い残して、緑の大天使は白い部屋を後にした。


前回の話の後で続けてかいたら、すげー早かった。(爆)
よし。明日手術だからね、明日!(笑)

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