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【星紡夜話】みなもの光29・闇の深淵3

クリロズの個室にポータルを繋いで、メイシンとユリウスはそこに直接入リ込む。
ポータルで移動するのも、彼には相当の負担がかかるだろう。メイシンはそれを承知の上で、それでも一刻も早く移動を済ませたかった。
ふらつく青年の長身を支えながら、白い館の二階にあてがわれた個室へと、メイシンはポータルを抜けて降り立つ。

三次元の本体が鍵をもらったこの部屋は、最近改装したばかりで、ドアを開けて入ったところに、四人ほどがソファでくつろげる応接セット、アカシックに繋がる端末が置かれた机がある。その奥の、籐の間仕切りの向こうに、プライベートスペースを作り、ダブルサイズのベッドが設置してあった。
窓際に置かれたベッドに、ユリウスを座らせて、メイシンは一息つく。
「大丈夫?」
「……ああ」
微かな声だが、返事があったことで、彼女は少し安堵した。
「ちょっと休んだら、温泉に行こうね。ゆーっくり漬かったら、元気になるよ」
勤めて、メイシンは明るく振舞おうと努力していた。
自身も、そうしなければ、途方にくれて動けなくなってしまうような氣がしていたから。

ユリウスと一緒にいても、エネルギーが循環しない。
ジェレミーにエネルギー回路の欠陥を指摘されてから、メイシン自身も、エネルギーを吸い取られるような感覚を覚えていた。
与えても、与えても一方通行な感覚。
注いでも注いでも帰って来ない愛情。

虚しく、悲しくて仕方がない気持ちを、気力で補って、メイシンは動いた。

二人はひとまず、温泉のヒーリング溶液でエネルギーを補った。
そしてユリウスを部屋で休ませると、メイシンは単身、ミカエルの元へ赴いた。

大天使の元で事情を話し終えたメイシンに、ミカエルは彼女が予想していなかった言葉を口にした。
「まずはエネルギーを補っていけ」
メイシンは、一瞬目を丸くした。
今エネルギーが必要なのは、自分ではなくユリウスの方だ。
自分がエネルギーを補っても……
と、そこまで考えて、メイシンははたと氣がついた。

自分はユリウスにエネルギーを吸い取られているのだ。ツインコードを介して。

「自分がどれだけ消耗してるか分かってるのか」
ミカエルの忠告が追い討ちをかける。
「…わかってるよ」
僅かに蒼白になりながら、メイシンは反射的に答えた。
「お前が倒れたら奴も共倒れだぞ」
「わかってるよ!」
思わず叫んだ。

これはマーシアの二の舞だ。
『君も気をつけたほうがいいよ』
ジェレミーの台詞が、今頃胸に刺さる。

これまでマーシアが補っていたものを、今は自分が補っている。
いや、恐らく、これは序の口。
このままでは、自分はただのエネルギー補給路として存在するだけになる。
根源の光に繋がれば、ひとまず生きられるだけのエネルギーは得られるだろう。
だが、ひとたび根源から離れるようなことが起きれば、確実にロストへと向かう。
今のユリウスのように。

それでも、今は自分より彼を優先しなければ。

固まってしまったメイシンの様子を見かねたのか、ミカエルは彼女にこんな提案をした。
「ルシフェルに会ってみるか?」
出てきた名前に驚いて、メイシンは一度、大天使の顔を見上げた。

闇を知る者。
彼女の認識では、ルシフェルとはそういう存在だった。
会えば何かが好転するというのか。

混乱する頭をもたげて、メイシンは答えを出せずにいた。
「……ちょっと、考える。ユリウスの様子も心配だし、一度帰るよ」
結局彼女は、 そのままクリロズへと戻っていった。

白い館の階段を二階へと上がって、右へ曲がった二番目のドア。
その古びた木製のドアを開けると、応接ソファの奥にある窓辺に、ユリウスが座っていた。
窓枠に腰掛け、じっとただ窓の外を、見るでもなく見ている。
明るく差し込む陽光と、館の周りを囲むクリスタルローズの輝きを、碧い瞳に写してはいるものの、ただ写っているだけで、彼の心には見えてはいないようだった。

ここに辿り着くまでの道のりで、どれだけのものを犠牲にしてきたのだろう。
自分だけが犠牲になったのなら、こんなにも空虚な思いに満たされる事はなかっただろうか。
償う術が分からない。
ただこれだけは分かる。

自分にはこのまま、幸せを謳歌する資格は無い。

窓辺に腰掛ける青年を、メイシンはやるせなく見つめていた。
全てが一方通行のような氣がしていた。
尽くしても伝わらない。
これ以上、どうやって愛したらいいのか分からない。

その後もしばらく、温泉のヒーリング溶液に漬かる毎日が続いていたが、ユリウスの様子は一向に変わることがなかった。
メイシンがどれだけ励まそうと、彼の耳を素通りするかのように見える。

罪の意識を変えることが出来ない。
その絶望を胸に抱いている限り、ユリウスは闇から抜け出すことが出来ない。
彼の目に映っているのは、クリスタルローズの美しい庭ではなく、深淵なる暗闇だけであった。

心ここにあらず、という言葉がぴたりとはまるような彼の姿を見て、メイシンは途方に暮れた。

どこへ行ってしまったの。
あたしが知っているユーリは、どこへ行ってしまったの。

傍にいても何も出来ない不甲斐なさに、涙が溢れてくる。
ここに居れば、エネルギーの補給は何とか出来る。
だが、それ以上には良くならない。

自分にはこれ以上手立てがないと分かった以上、もう、余計なことは考えない。
メイシンは再度、大天使ミカエルの元に赴く事を決意した。


あの時はホントやばかったんです。。
マーシアの場合は、鬱っぽくなる感覚が強かったんだけど、
メイシンの場合は、それこそエネルギー吸い取られてます~みたいなのがすごく分かって。
泣く泣くしぶしぶのメイシンを、ミカエルのところに押しやったですよ。(笑)

あ~やっと次にいけます。。。

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