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【星紡夜話】みなもの光28・闇の深淵2

神殿で根源から光を降ろし、エネルギーを補って、ユリウスは少しばかり回復したように見えた。
彼が落ち着いたのを見計らい、メイシンは青年を支えて、小さな家に戻った。

「おかえり」
リビングに居合わせたジェレミーが、穏やかな笑みで迎える。
青年に寄り添いながら、メイシンは奥のドアへと向かう。
「ちょっとユーリ寝かせてくるね」
「調子悪そうだね」
穏やかな声でかけられた言葉で、メイシンはふと思いついた。
「ジェレミー、ヒーリング得意だっけ? ちょっとしてあげてよ」
「悪いけど、出来ない」
穏やかだが、情のこもらない声が、メイシンの胸に刺さった。
「……なんで?」
「やっても無駄だから」
穏やかに見えるアクアマリンの瞳から、氷のような冷たい波動を感じるのは何故だろう。
わけが分からなくとも、その感情だけは感知して、メイシンの顔色は青ざめた。
「…どういうこと?」
「もう回路が作り上げられてしまってるんだ。意識の切り替えやヒーリングじゃどうにもならない」

言われた言葉の意味が分からなかった。
ただ落ち込んでいるだけではないのか?
ユリウスの気力が回復すれば、以前の姿が取り戻せると信じていた彼女は、ジェレミーの言葉を理解できないでいた。
「回路って…なに」
「他人のエネルギーを吸い尽くして、闇へ流す回路だよ」

メイシンは目を見張ったまま、完全に固まって動かなくなった。
考えることも、動くことも出来ない。
一瞬だけ、視界が揺れて、眩暈がしたような氣がした。
「ヒーリングなんかしたら、エネルギーを吸い取られて僕がロストしてしまう。マーシアが今まで無事だったのが不思議なくらいだよ」
勤めて情がこもらないように話しているのか、ジェレミーの語り口には冷めたものがあった。
メイシンは、震えそうになる唇を、やっとの事で動かして言う。
「あんたそれ……知ってて黙ってたの」

ジェレミーは、もうメイシンを見ていなかった。
彼の視界には、彼女に掴まってうなだれる青年の、僅かに覗く顔色しか見えていない。
「マーシアを取り戻すためだ。僕が君と融合したのは。他には何もない。君がどうなろうと僕には関係ない」
「何言ってんの! ユーリに何かあったらあんたも巻き添えじゃないか!」
「僕は巻き添えにはならないよ」
この時初めて、ジェレミーは口元を歪めて笑った。
アイスブルーの冷たい視線を、ユリウスの金髪に注ぎながら。

「…なに、その自信……」
自分の知っている青年ではない。
メイシンはそう思いたかった。
いつもの人懐こい笑みを浮かべた、優しい青年の印象は欠片も無く、今は氷のように冴えた波動をまとって、ユリウスを睨み付ける。
その白い口から、今まで彼が胸の奥に隠し続けていた、積年の感情を吐き出した。
「堕ちればいい。今までマーシアを散々食いものにしてきた報いだよ」

メイシンの肩に掴まる青年の手から、力が抜けていくのが分かった。
慌てて、彼女はユリウスを横から抱える。
神殿でせっかく回復したものを、また失ってしまったかのようだ。
ユリウスは力なく、メイシンにもたれて立つのがやっとの状態だった。
目を見開いたまま、彼の思考は絶望の淵へと流されていく。

その青年を、メイシンはしっかりと支えて、ジェレミーに向き直った。
「あたしはユーリを守る」
追い詰められた時の強さ。
彼女の底力は、この強さに由来するようだった。
真っ直ぐな瞳で、アクアマリンの青年を見据えると、メイシンは腹の底から誓うように言った。
「あんたがマーシアを救ったように、あたしはユーリを必ず救い出すよ」
「それは彼も心強いだろうね」
静かだが冷たく、ジェレミーは口元にだけ、笑みを閃かせた。
ジェレミーは冷めた視線でユリウスに一瞥くれると、もう一度だけメイシンを振り返った。
「君も気をつけたほうがいいよ」
彼はそのまま、自室へと続くドアの向こうに消えた。

信じられなかった。
今まで何のわだかまりも無く、心置けない存在であると信じていた者から、突然見放されたような気分だった。
支えている青年の身体から、また力が抜けていくのを感じて、メイシンは彼をソファへ座らせた。
「……ヒーリングセンターに行こう。あそこなら、ちゃんと診てもらえるはずだよ」
ユリウスは、力なく首を振った。
治す資格など無い。

マーシアを苦しめ続けていた。
分かってはいた、その事実を改めて突きつけられ、彼の意識は暗闇へと、吸い寄せられるように近づいていた。

「じゃあ、クリロズに行こう。あそこには部屋もあるし」
強引に動かすのは危険かもしれない。
だが、今はここに居るべきではないと、メイシンは感じていた。
ここに居ても、ユリウスの状態が良くなるわけではない。むしろ彼にとって害のある思念が、ここには存在する。
それが分かった今、少しでも改善の可能性のある場所へ、彼を連れて行きたかった。
「温泉入りに行こう。ね?」
彼の返事は得られない。
けれど、メイシンには、彼が今懸命に、絶望と戦い続けているように思えてならなかった。

今はただ、支えなければ。
彼を支えられるのは、自分だけなのだから。

「……ユーリ、大丈夫。……大丈夫だよ…」
金髪の頭を胸に抱えて、彼女は込み上げてくる涙を、懸命に堪えていた。


。。。。すいません。フォローできません。orz

このやりとりは。。つい最近、解凍されて降りてきたんだよね。
まぁ。。渦中に降ろされてたら、下の私はパニックになってたかもだよね。。
その辺は、まぁ、ジェレミー君の愛だということで。。。( ̄▽ ̄;)

はい。さっさと行きましょう。さっさと。

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