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【星紡夜話】みなもの光26・重陽の月

小さな家のドアが開いたのに気付いて、メイシンが振り返った。
「おかえ……」
いつものように迎えの挨拶をしようとして、彼女は思わず絶句する。

開かれたドアの向こうに立っていたのは、金髪の長いくせ毛をけぶらせ、白く大きな翼を背に持つ少女だった。

金髪の天使。
……が、うちに来た?

あんぐりと口を開けて、眼を丸くしたまま、メイシンが呟く。
「あんた……誰?」
金髪の少女の後ろに立っていたジェレミーが、思わず吹き出した。
「マーシアだよ」
「はっ!?」
金髪の少女は青い瞳でメイシンを見上げると、少し恥ずかしそうにはにかんだ。
その微笑には陰りがなく、見た目相応の明るさと華やかさで、場の氣を明るく輝かせる。
あまりにも違う。
メイシンが以前から慣れ親しんだマーシアの、穏やかな波動は感じるものの、初々しい若葉のような香気がそれを凌ぐ。何よりも、波動から重さが抜けて軽く感じるのだ。

ふと気付いて、メイシンは自分の隣を振り返った。
自分の横に同じように立っているユリウスが、やはり呆然と金髪の少女に見惚れている。
しばらくその惚けた顔を見ていると、メイシンは腹にムカムカと何かが沸いてきたのか、さり気なくユリウスの脇腹に手を伸ばし、指先で思い切りつねった。
「……痛っってえぇぇぇぇっ」
脇腹に走った激痛に悶絶する青年を完全に無視して、メイシンはマーシアの元に駆け寄った。
「二人とも羽根広げちゃってー」
「この方が自然な感じがするの~」
「……雰囲気全然ちがうじゃん……」
小鳥が歌うように高い声で返事をするマーシアをまじまじと見て、メイシンは珍しいものを見るように少女の顔を覗き込んだ。
ジェレミーはさも嬉しそうに、マーシアの後ろでニコニコとしている。
「明るくなったでしょ」
「明るいってゆーか……別人…てゆーか……若返ってない?」
確かにそうなのだ。
以前まで二十歳くらいの儚い女性だった彼女は、今は十六歳くらいの少女に見える。背丈は変わっていないようだが、メイシンの方がツイン契約後に背が伸びてしまったため、彼女から見ると随分と幼く映るのだろう。
「女子高生みたいだな」
先ほどまで悶絶していた青年が、いつの間にかメイシンの横に来ていた。
メイシンの青い瞳が、ユリウスの金髪を横目でにらむ。
「あんたまだ居たの」
「俺はお前から離れないの」
「や~だ鬱陶し~い」
二人のやり取りに苦笑しながら、ジェレミーはマーシアの肩を押してリビングのソファへ歩を進めた。
「今日はお祝いするよ。マーシアが本来の姿に戻ったからね」
嬉しそうに、青い瞳を輝かせて、少女はツインの青年を見上げた。
「じゃあさ、外でやろうよ。月も出てるし」
「いいね。セッティング頼むよ」
「オッケー」
メイシンがジェレミーと軽快なやり取りを交わすのに相反して、ユリウスは何やら青ざめながら胃の辺りを押さえ、寝室へと続くドアへと向かい始めた。
「……俺ちょっと休むわ…」
その様子を、密かに洞察するような目で見やってから、ジェレミーが尋ねる。
「ひょっとして、相当なダメージ?」
「……ちょっとな」
「純情可憐なマーシアちゃんにノックアウト~」
「お前が言うなっ」
おどけてからかうツインの言葉に内心傷つきながら、ユリウスはリビングを出て行った。

メイシンがテラスにテーブルクロスを広げ、ディナーのセッティングをしている間に、ジェレミーはキッチンでパーティー用の食事を作る。 そこにマーシアが入ってきて、彼に寄り添った。
「わたしも手伝うね」
「いいよ、主賓は座ってて」
「でも手伝いたいの」
傍らで愛らしく微笑む少女を見下ろして、ジェレミーは心から込み上げて来る喜びを抑えきれない。
「じゃあ、これ、皮むいてね」
ジェレミーが林檎をひとつ手渡すと、マーシアは両手にそれを包んで、また極上の笑みを浮かべる。
キッチンで仲睦まじく肩を並べる二人を見ながら、メイシンはぼそりとひとりごちた。
「あの羽根……邪魔じゃないんかね……」

濃紺の闇を切り取ったように、浮かび上がる月。
銀色の星が無数に瞬く、冴えた夜空の下で。
効果的に並べられたランプの灯りが、夜の闇に包まれたテラスを浮かび上がらせる。
綺麗に敷かれたテーブルクロスの上には、ロールパンや具沢山の野菜スープ、フルーツ山盛りの皿など、色とりどりの皿が並べられ、その中央には、メインであるフルーツケーキが置かれていた。

その丸テーブルを囲んで、四人の談笑する声が弾ける。
「あんたたち天使に戻っちゃったの~?」
メイシンの陽気な問いに、ジェレミーは笑って答える。
「羽根を出してる方が波動が上がって調子いいみたいだから、マーシアが」
「しまっちゃうと気分が下がりそうで。しばらく出したままで居させてね」
「別にいいんだけど……」
メイシンは苦笑しつつ、全く別人のような二人を見ながら、カットされた林檎を口に運んだ。
「メイシンは出さないの?」
マーシアの問いに、メイシンは眉をひそめる。
「え~? めんどくさ~い」
「俺と色が違うから出したくないんだ」
「それ全然関係ないから」
隣でぼそりと呟いたユリウスの言葉を全否定して、メイシンは不貞腐れた。
不貞腐れつつ、横目でツインの表情を見やる。
平静を装っているかのような、表情に乏しい青年の顔を、メイシンは密かに訝しんだ。

闇を払うように強く輝く月明かりの下、四人の宴は夜更けまで続いていった。


こんな風にすとーんと降ろしてくれたら、書くのが楽なのよね。(笑)
4人の楽しそうな情景が目に浮かぶようです。(いや見えてるんだけど)

。。。。これが最後の晩餐とも知らずに。。。(爆弾発言)

。。。き、気合だ、気合!

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