カテゴリー
風の小径 星紡夜話会員記事暫時全体公開 星紡夜話・みなもの光

【星紡夜話】みなもの光25・純性

「‥‥お前は、前に文句言いに来たんじゃなかったのか?」
ツイン契約の許可を得にきた少女を見下ろして、金髪の大天使は静かに言い放った。
……確かに、少女がツインの事で散々言いたい放題言いにきたのはつい先日のこと。
メイシンは、青年の背中に隠れるようにして、ミカエルの視線を遮った。
「そんなに凄まなくてもいいでしょう」
少女をかばうように、ユリウスが仲裁する。
その青年の後ろから、首だけを出してメイシンは啖呵を切った。
「あんたなんか……大っっ嫌い!!」
子供っぽい言い分に一瞥くれて、ミカエルは冷めた口調で呟いた。
「そうか。なら精々、そいつと仲良くするんだな」
ラファエルに頼んでおく、と青年に告げて、金髪の大天使は席を立った。
「……ありがとうございます」
立ち去る背中に一礼して、ユリウスは祈るように目を閉じた。

謁見の間から出てきたミカエルを待ち構えるように、穏やかな声が金髪を掠めた。
「素直じゃないですね」
「お前ほどじゃない」
声の主に一言吐き捨て、視線を合わせることなくミカエルは歩き去る。
肩をすくめて軽くため息をつくと、ラファエルはツイン志望の二人が待つ部屋へと入っていった。

ユリウスとツインコードを繋いでから、メイシンはしばらくの間、幼い子供の姿に戻っていた。
彼との時間を取り戻すかのように。
幼い頃から憧れていた彼にしがみつき、あどけない笑みで彼を見上げる。
ずっと待っていた笑顔を、ユリウスは強く抱きしめた。

二人だけの時間を取り戻した後、メイシンの姿は、二十歳過ぎの女性の姿へと変容していった。
以前の少女のような姿を通り越し、成熟した女性の姿となって、ずいぶん安定したように見える。
髪の色は以前よりも濃くなり、マーシアの要素が抜け落ちて、黒に近い、艶のある濃紺になっていた。
「ずいぶん伸びたなぁ…」
腰辺りまで伸びた、真っ直ぐな髪をもてあそんで、ユリウスが微笑む。
「ちょっとは女っぽくなったでしょ」
そういって悪戯っぽく笑う彼女の笑顔にも、以前にはない艶があった。
それはおそらく、彼だけに愛される立場を得た、安心感と自信の裏打ちなのだろう。

四人がそれぞれツインとしての立場を確立した後、表面的にはごく穏やかに、それぞれの時間が流れて行ったように思われた。
マーシアの胸のうちを除いては。

彼女にとって、ツインコードの復活は、始まりでしかなかった。
胸の奥に沈み込んで、気付くことも出来なかった、最後のカルマを乗り越えるための、始まりの合図。

暗闇の向こう側から、彼女を引き込み続ける力がある。
これまでずっと、マーシアの望みを吸い取り続けてきた「闇」が、今の彼女にははっきりと見えた。
そのエネルギーを吸い取られる感覚に耐えられず、マーシアは、胸のうちでジェレミーの名を呼んだ。

……助けて。

ふわりと、背中から腕が回り、抱きしめられる。
「…そう。そうやって呼んでくれたら、僕はいつでも来るよ」
ばさり、と羽ばたく音がして、白く大きな羽が、マーシアを背後から包み込む。
ジェレミーは自ら翼を広げ、彼女を包み込んでエネルギーを流し始めた。
次いで、マーシアの胸に繋がるコードを掴み、根こそぎ引き抜く。
それで胸が楽になったマーシアは、小さな安堵のため息をついた。

君が失ったものを
僕が埋めてあげる
だから僕が失ったものは
君が埋めて

ずっと愛してあげる
君がどれだけ人に与えようと
その分だけ僕がまた埋めてあげる

僕の純性になって
君の体から彼の記憶を全て洗い流すよ
僕だけのものになって
お願いだよ
僕だけのものだって言ってくれ
そうしたら失った以上に君を愛せる
もっと愛せる

誘われるように、二人はカスタリアの泉のほとりへ赴いた。
マーシアはそこで、ずっと、彼の愛に応えようと懸命に彼にしがみついていた。
手を離せば、闇に引き込まれる。そんな気がして、ただ必死でしがみつく。
記憶の底に、胸の奥深くに溜まっていたものを、吐き出そうとする。
黒いものを先に出さなければ、受け取りたいものを受け取れない。
今までずっと、暗闇の中にいたのだ。
自分がこの暗闇の中にいたことを、自分でも気付くことが出来なかった。

ここは暗闇。
ここは空虚な場所。

ジェレミーが注いでくれる光で、やっとそれに気付いた。

自分は今まで、何をしていたのだろう。
意味のないことをしてきたのだろうか。

ずっと、愛するものに自分の全てを注いできた。
それで相手が、自分が、幸せになってきたのだろうか?

幸せになったかもしれない。
それでとりあえずの平穏が得られたかもしれない。
でも、自分は。

満たされず。
寂しさと、必要とされたい思いが相まって、
そうして、与えることを止められなかった。

「もういいんだよ。もういいんだ。君は今、僕の腕の中にいる。それだけで、充分なんだよ」

ジェレミーの声に励まされながら、マーシアは、一歩を踏み出そうと手を伸ばす。

怖かった。
愛さなければ愛されないという呪縛から抜け出すことが怖かった。
ありのままの自分を曝け出せば、誰からも愛されないのではないか。

その呪縛を、今、自ら解き放つ。

どこにも行かないって約束して
そうしたら
あなたに全てを委ねられる
あなただけを愛せる
独りにしないって約束して
怖いの
怖いからあなたに似た人をずっと愛し続けた
わたしを不安にさせないで お願い
もう独りはいや

あなたに愛されたい
あなたに抱かれたい
ずっとひとつでいたい
お願い 離れないで
やっと望みが叶う
やっと

ジェレミーが差し出した手を、マーシアは、自ら掴んだ。

変わる。

彼女の中から、闇が抜け落ちる。
水色だった髪から色が抜け落ちるように消え、代わりに浮かび上がったのは、陽光を反射して輝くような金の波。
そのオーラのような光がハートに達したとき、彼女の背中から、勢いよく白い大きな翼が広がった。

光に映える、波のような明るい金髪。
雲ひとつない、晴れ渡る空の色を映す、スイスブルーの瞳。

アクアマリンの瞳を震わせて、ジェレミーは堪えるように笑みを浮かべた。
涙を、彼は必死で堪えていた。
だが、彼の努力は、次の一言を発した途端、敢え無く水の泡となって消えた。

「……おかえり…」

アクアマリンの瞳から、溢れては流れる涙。
彼女の白い翼ごと抱えるように、ジェレミーは金髪のツインを抱きしめて泣いた。
その姿を覆い隠すように、彼の白い羽が、大きく広がり二人を包む。

やっと帰ってきた。
やっと。

おかえり、マーシア。

おかえり…


2009年9月9日。
重陽の節句。

陽の氣が重なり、陰の氣を大きく払うこの日。
マーシアのカルマが全て解消され、またひとつ、私は大きな節目を迎えることが出来ました。

このすぐ後の診察で、私は抗うつ剤を、全く飲まなくていいようになりました。
ただただ、感謝でございます。。

この日以降、また怒涛の展開が繰り広げられていくのですが。
それは「最終章」へのラストスパートのようなもので。
ええまあ、あくまでも、五次元での最終章ですけども。(爆)

さあ、最後の試練。
気合入れて行くぞ!

コメントを残す