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【星紡夜話】みなもの光22・宿命(さだめ)た場所へ1

長かった。
とても長く感じられた。

あなたまで辿り着くために、
一体どれだけの転生を繰り返したのだろう。

差し込む光が眩しく感じられて、メイシンはうっすらと瞼を開いた。
目を開くと、見慣れた天井が飛び込んでくる。
自分の部屋のベッドに横たわっているのだと氣が付いて、少女はゆっくりと身を起こした。
「無理しちゃ駄目だよ」
横から声がして視線をやると、ベッドの傍らにジェレミーが座っていた。
メイシンは、まだ思うように動かない身体を起こして、枕に背をもたせ掛ける。
「……もう大丈夫。ちょっとびっくりしただけ」
力ない声と共に、メイシンは笑顔を作った。
少女の気丈な笑みを、ジェレミーは痛々しげに見つめる。
「どうして『分離』してまで来たの」
「ジェイが……あんた達が出てったのが、なんか氣になって」
ジェイが統合を解いて、ジェレミーとユリウスに完全に分かれた事を、メイシンが感知したのだろう。
マリア・メイとして統合していた彼女たちは、再び分かれてメイシンとマーシアとして存在していた。
彼女たちも再び、別れて存在する道を選んだのか。ジェレミーがため息をつくと、
「だって……マーシア連れて行くわけにいかないじゃん」
少し言い訳がましいかな、と思いつつ、メイシンは苦笑を返した。
そして、恐る恐る、少女は一番聞きたかったことを、青年に尋ねる。
「……ユーリは?」
アクアマリンの瞳が、わずかに曇った。
「……外にいるよ」
ジェレミーが言い終わらないうちに、メイシンの視線の先には「彼」の姿が映っていた。
ドアの前に立ち尽くす、薄い金髪とパライバトルマリンの瞳。
背の高い青年を見上げて、少女の青い瞳が揺らぐのを、ジェレミーは気付いて背後を振り返った。
うつむきがちに立ち尽くす青年に、メイシンは声をかけた。
「……ユーリのせいじゃないよ」
返事を返すことが出来ない、碧い瞳の青年を横目で見ながら、ジェレミーは立ち上がった。
ドアの前に立つ青年の横をすり抜けざま、
(……もう逃げるのはなしだよ)
小さく心話で吐き捨てて、ジェレミーは部屋の外へと出て行った。

長い沈黙が訪れる。
窓から差し込む光が少女を照らし、入り込んだ風が藍色の髪を微かに揺らすのを、青年はただ、眩しげに見つめていた。

自分はまだ、あそこには辿り着けない。

ただ、これだけは伝えておきたい。
「……済まなかった」
メイシンは微笑んだ。
「ユーリに刺されなくても、あたしは死んでたよ」

まだ、その名で呼んでくれるのか。

ユリウスとして生きていた頃、彼女が好んで呼んでいた、彼の愛称。

「でも、あんたは自分が殺したことにしたかったんだ」
少女の言葉で、あの生の最期の場面が蘇る。
「……どうして?」
メイシンの真っ直ぐな瞳が、青年の顔を捉えた。
長い沈黙が、再び彼らの間を流れる。
静かな時間に勇気を与えられたかのように、青年は顔を上げて、少女を見つめ返した。
「……愛していたから」

自分は、彼女の前に姿を現すことを許されない存在だった。
「佐守」を許してもらえても、「ユリウス」は許してもらえないだろう。
ただ、彼はあの時一心にこう思っていた。

他人に傷つけられて悦ぶお前を見たくなかった。
傷の具合から、助からないのは目に見えていた。
他人に奪われるくらいならいっそ。
それならいっそ、自分のこの手で、快感を味わいながら死んでくれたら。

「……よかった」
彼にとっては意外な言葉が、少女の口から零れた。
瞳ににじんだ涙を拭いながら、メイシンは続ける。
「あたし、よく憶えてないんだ。大体の事しか思い出せなくて……あんたがどう思ってたか、よく思い出せなかったから」
三次元体が存在するために、おそらく記憶を封じられているのだろう。僅かにしか浮かんでこない記憶を手繰り寄せながら、メイシンはそう思う。
「……済まない」
思い出す必要のない記憶を、引き出してしまった事を、ユリウスは後悔した。
再びうつむく青年に、メイシンは首を振った。

「あの後、ユーリはどうしたの?」
「……死んだ」
「え」
「お前を刺してすぐ、敵に後ろから刺された」
今度は少女が、顔を曇らせる番になった。青い瞳から、再び涙が零れ落ちる。
「あたしのせいなんだ……あたしがあんな手術受けたから、ユーリまで巻き込んで……」
「違う。俺のわがままで、お前を殺したんだ」

他の者に殺されたくはなかった。
ましてや、他の者に快感を与えられるなど。
少女を愛するのも、殺すのも、彼女に関わるのは全て自分でありたかった。

「……嫉妬深いんだ、俺」

苦笑いを浮かべながら、碧い瞳が少女を見つめる。その先で、メイシンは堪えきれなくなったように、両手で顔を覆って泣き崩れた。

「……ごめん」
いつも少女を傷つけて、泣かせてしまっていることを、青年は悔やんでいた。
だから彼女には近づけない。
泣いているその肩を、引き寄せて抱きしめてやることは出来ない。
自分は狂っているのだろう。
自己の欲求だけを満たす転生を、きっと何度となく繰り返してきたのだろう。

しばらくしゃくりあげていたメイシンは、少し落ち着いたのか、ようやく涙を拭いて顔を上げることが出来た。涙で腫れた顔を、照れくさそうに隠しながら。
「あたしが……死ぬ間際に言ったこと憶えてる?」
「……いや」
少女が死際に口を開いた記憶は、彼にはなかった。
だが、メイシンははっきりとした声で、こう告げる。
「あたし、これだけは憶えてる。『ありがとう』って言ったんだよ」

涙が零れたあの瞬間に。
少女の意識は、闇から引き戻されていた。

「そうでなきゃ、転生なんて出来ない。ユーリが刺してくれたから、あたしは助かったんだ」

金髪の間で、大きく見開かれたパライバの瞳が、少女の顔を映して揺れている。
呆然と立ち尽くす彼に、メイシンは手を伸ばした。
「……こっち来てよ。あたしまだ立てない」

そこに、行ってもいいのか。
青年の中で、まだ後悔は消えない。彼女の傍に、この姿で立つことを、自分に許せないでいる。
そんな彼に、真っ直ぐ差し出された手は、窓から差し込む光に照らされて、ずっと彼を待っている。
躊躇いながら、ユリウスはゆっくりとベッドに歩み寄った。
ベッドの横で立ち止まった青年の腕を引いて座らせ、メイシンは金髪の頭に手を伸ばして、自分の胸に抱き抱えた。
「……ユーリ…ずっと逢いたかった」
少女の胸から、暖かい波動が伝わってくる。
その暖かさに、胸が詰まる思いで、青年は目頭が熱くなるのを押さえ込むように堪えていた。
それに追い討ちをかけるように、少女の声が頭の上で囁いた。

「大好きよ」

涙を堪えきれなくなった身体は、少女の胸に頭を押し付けたまま、長い腕で彼女の細い肩にしがみ付いた。
肩を震わせ、嗚咽する青年の胸から、小さく心話が漏れる。

(……メリッサ…)

その言葉に、懐かしさを感じて、メイシンは閉じていた目を開いた。

(…ああ、それ、……あたしの名前だね……)

金髪の頭に頬をうずめて抱き直しながら、少女が笑ったのを、青年は胸の波動で感じ取った。

何気なく投げかけてくれる、あどけない笑み。
その笑顔を、ずっと見たかった。

メリッサ。

ありがとう。


一番最初に、ユリウスとの過去を思い出したときに降りてきたのが、ユリウスがメイシンを刺すシーンでした。
でもなんであんなことになったのか?
ユリウスが端末を触らせてくれない(笑)のもあって、彼の記憶を頼りに探っていった結果。
あの手術を受けてるんじゃないか。って思った途端に、つじつまがバシーっと合ってしまった。orz
うそだぁ~。。あの人の小説読みすぎだよ~( ̄▽ ̄;)って思いましたよ。。思いましたけど。
後から降りてきた内容を繋ぎ合わせてみると、あの手術なしには成立しないお話になってしまい。
。。。ま、そんなわけで。。。orz
ホントかどうかなんて。。。上で会ったら、彼女たちに聞いてみて。。。今クリロズにいるからさ~(笑)

「ユーリ」がユリウスの愛称だってくだりを書いたときに、
ふーん、じゃ、メイシンは?って思ってたら、ふと、
「メリッサ」って名前が出てきたんですよ。ユリウスが教えてくれたみたいです。。(笑)
私はちっとも、自力で思い出せないな~( ̄▽ ̄;)

。。さ~て。ジェレミー君はどうすんの?(笑)

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