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風の小径 星紡夜話会員記事暫時全体公開 星紡夜話・みなもの光

【星紡夜話】みなもの光21・灼天子2

運命を決める戦場は、いつになく静かだった。
嵐の前の静けさか。

「俺から離れるなよ」
傍らに立つ少女に、青年は念を押す。
少女は、少し笑っただけだった。
昔のような輝く笑みを、もう少女の顔に見ることはなくなっていた。
空虚の中に、少し感情を漂わせただけの、儚い笑み。

彼方から押し寄せる、暗黒の塊。
そこに、彼らは突破口を開ける。

最初に切り込んだのは、ユリウス。
彼が開けた「穴」に、少女が飛び込む。
無謀なほどただ前にいるものを切り倒し続け、防御というものを最初から知らないかのごとく、相手を切り裂くだけの剣さばき。
両脇から、背後から、迫りくる刃には見向きもしない。

少女に近づく凶刃を、青年は払い続けた。
彼女は振り返らない。
ただ敵を薙ぎ払うためだけに作られた機械のように、ためらうことなく少女は前進し続けた。

後続の天軍の声を聞きながら、青年は思う。

ここを切り抜けたら、もう一度ミカエルに会う。今度は二人で。

その瞬間、鈍い音を、青年の耳が聞いた。
少女の肩に銀の刃が食い込むのを、青年は払えなかった。
少女に斬り込み、一瞬だけ動きが止まったその隙に、青年は剣を薙ぎ憎敵を斬り倒す。

思考が止まりそうになっていた。
少女の顔に浮かぶ恍惚の笑み。
大きく歪む口元に閃く、見る者の心を凍らせるような微笑。

深手を負った右肩を振り上げ、闇に切り込んでいく。彼女の剣さばきは、ますます勢いを増していた。
ぱっくりと割れた肩から、どくどくと赤い血が流れ落ちる。
そんな深手でいつまで持つと思うのか?
持つはずがない。普通なら剣を持つことさえままらなない。

少女の心が恍惚の闇に誘われるにつれ、青年は己の思考が麻痺していくのを感じていた。

もうやめてくれ。

帰るんだ。

ここから必ず生きて連れ帰る。

深手を負って剣勢の鈍った少女の脇腹に、二つ目の深手が刻み込まれた。

そんな顔をするな。

やめてくれ。

誰も近づくな。

深手を負った少女に、もはや戦闘能力などない。
何よりも、痛みを快感に摩り替えられたことで、刃に対して完全に無防備になった。
深手を負った少女は、本来の目的である「傷にひるむことなく敵を倒す」事とは相反して、敵の刃を自ら受けに行くかのように、銀刃の間を傷つきながらふらつきはじめた。

快感の闇に手招きされた、少女の笑顔は、うっとりと暗闇を見つめる。

行かせない。
決してひとりでは行かせないと誓った。
誰であろうと、何であろうとお前を渡さない。

お前ひとりを行かせはしない。

少女の心臓に、鋭い刃が突き立っていた。
その剣の柄を握っているのは、碧い瞳の青年。

間に合ってくれ。
生きたまま傷つき闇に落ちるのなら。
せめてこの手で、
先に命を絶とう。

なぁ、知ってたか。
俺がお前を好きだったこと。

今度ミカエルに会いに行って、
お前を驚かせてやるつもりだった。

お前ひとりを行かせはしない。
俺もお前と、同じ場所へ行く。
どこまでも追いかける。
お前が闇へ向かうならそこへ。
お前が光に向かうならそこへ。

胸を貫かれ、仰向けに倒れた少女の瞳から、一滴だけ、涙が零れ落ちたのを、青年は見つけた。

……間に合った。

青年の頭にその言葉がよぎった瞬間、彼は背中から胸にかけて激痛を覚えた。
痛みの走る胸から、ほとばしる血液と共に、白く光る刃が覗く。

左手で、それを確かめながら、彼は少女の瞳をもう一度覗き込んだ。
その見開かれた瞳の中には、すでに彼女の意識はない。
あの忌まわしい笑みは、もうそこにはない。
だが、あの輝くような笑顔を、少女の顔に再び見る事も出来なくなった。
抜け殻となってしまった少女の白い顔を、青年は赤い血の付いた手でなぞった。

俺は卑怯者だな。
お前を失う、喪失感を味わう暇もなく、後を追うなんて。

済まない。
お前を守りきれなかった。

済まない。

背中に突き立てられた刃を引き抜かれた青年は、闇の軍勢から少女を覆い隠すようにして崩れ落ちた。

もはや魂の留まらない彼らの姿は、押し寄せる戦場の赤い波の中に、沈み込んで消えていった。

ここで成しえなかった望みのために、彼らは再び転生の旅に出る。
長い長い時を経て、再び戦いの場で出逢うことになった過去は、まだ記憶に新しい。
ユリウスとして彼女を守れなかった過去。
佐守として彼女を守れなかった過去。

再び彼女に出会うことを、彼は自分に許さなかった。
ただ、彼の意思とは裏腹に、大きな意思が彼らの再会を願ったとしか思えない。
その意思の中に、少女の願いが込められていた事も。

今度はあたしが、あなたを探しに行く。
必ず見つけるから。

必ず逢えるから。

自ら闇を振り切って、藍玉を胸に抱いた、あの瞬間を、あたしは決して忘れない。

やっと見つけた、あなたの魂を、
あたしは決して離さない。

離さないよ、ユーリ。

あたしを、諦めないでくれて、ありがとう。


やっと書けた。。。orz
サクサク行くといいながら、書けなかった言い訳をさせてください。。。
内容のせいじゃないんです。。
リアルタイムですげー大波が来てしまいまして。orz
お話どころじゃなかったというのが本当のところ。。

ああ、もう、サクサクっと書いてしまいたいのは本音なのですが、
まだ津波の余波が来るかもしれないので。(爆)さっさとアップするとは断言出来ません。(笑)
でも、さっさと次に行きたいのでがんばりまする。。orz
だってこんなことしてる間に。。リアルタイムとの時差が2ヶ月近くになってるんですよ。(爆)
2ヶ月前のお話ですよコレ。
あぁぁ。orz
五次元の彼らが「一件落着」するまでは、がんばって書くなりよ。(笑)
リアルタイムではもう「落着」してるんだけどね。。。( ̄▽ ̄;)

その後ですか?

。。。お話としてアップするんは無理があるかも。。orz
そんな事態に、今直面しております。。(泣)

あぅ~(T▽T)

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