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【星紡夜話】みなもの光19・其処に在る資格

何から始まったのか分からない。
きっかけがどこにあったのかも思い出せない。
ただ、ずっとくすぶっていた想い。

わたしは認められたいの?
全ての人に愛されたいの?
確固たる地位を確立したいの?

いいえ。
わたしは認められない。
わたしは要らない子。
わたしは捨てられたのだから。

愛されないのは構わない。
でも、
独り、ぽつんと、取り残された感覚に耐えられない。

マーシアとメイシンが統合してからも、マリア・メイの中で密かに沈み込んでいるマーシアの姿は、彼の目にも見えていた。

その姿に焦燥を覚えていたのは、ジェイの中の誰か。
以前からずっとそうだった。
だがこのところの憔悴ぶりはなんだ。

彼女を支えられるのが、自分ではないことに苛立つ。
愛しているのに、届かない右手。
彼女の手を掴んで引き寄せられるのは、たった一人。

それは自分でない。
それが分かるからこそ、ますます募る焦燥。

たったひとり、それが出来る存在は、彼と同じ胸の中で、彼女と同じように燻っている。

苛立つ思いが限界に達したある朝、ジェイは一人でカスタリアの戦闘訓練場へ足を運んだ。

訓練場の真ん中に立つと、ジェイは一度大きく息を吐いて、一気に氣を放つ。
青年の身体から放たれた、白い光に乗って弾き出されたのはジェレミーだった。
突然の「分離」に驚いて、ジェレミーは「彼」を見上げる。
尻餅をついて、地面から見上げるアクアマリンの瞳に映ったのは、
白い陽光を後ろに背負い、白金にくすぶる、癖のない金髪。
彼を見下ろす、パライバトルマリンの瞳。

ジェレミーを弾き出したその彼は、金茶色の癖毛の青年を、鋭い目つきで見下ろす。
手の中に剣を二対呼び出すと、そのひとつをジェレミーの前に投げ突き立てた。
「剣を取れ」

剣を取れ、ラファエルの子よ。
強くなりたいのだろう?

碧い瞳から発せられる強い意志が、ジェレミーを愕然とさせた。

……ミカエル。

その大天使の魂を継ぐ者。

明らかにジェイではない、金髪の青年は、アクアマリンの瞳を見下ろして続けた。
「お前が俺と融合した理由はなんだ」
「……終わりたくなかった」
腹の底に燻るものを感じながら、ジェレミーは呟いた。
「彼女の元に帰ると誓ったから。……彼女を取り戻すと誓ったからだよ」
白金の髪に見え隠れするパライバの瞳を、睨み付けながら唸るように言う。
普段の穏やかな青年からは想像もつかない、怒りの炎がアクアマリンの瞳に宿ったようだった。
「だったらそこで座り込んでる場合か」
「……お互い様だろ」
パライバの瞳が、一瞬揺らいだように彼には見えた。
「お互い様だよ。メイシンにその姿、見せたことあるのか!?」
白金の青年が、静かに眉をひそめた。

自分が臆しているとでも言うのか。

お互いが、互いに対してそう思っていた。

それぞれの守りたい者のためにそうしてきた。
それが彼女の為になるのならと。彼女が望んでいるのならと。

彼らの融合は、その為の「協定」だった。

だがそれも潮時だ。もうこれ以上は耐えられない。
ジェレミーの胸の中で、錆付いた扉の鍵が壊れたようだった。
開け放たれた扉の中から、感情の波に乗って言葉が飛び出す。
「臆病者は君の方だよ。カスタリアにメイシンが現れた時だって、ずっと僕の影に隠れてたじゃないか!」

メイシンが佐守を思い出したときも。
彼を求めて、砕け散ったときも。

返す言葉なく、立ち尽くすパライバの青年に向かって、ジェレミーは追い討ちをかけるように叫んだ。
「彼女に過去を思い出されるのを一番怖がっていたのは君の方だよ、ユリウス!」
ジェレミーの言葉に、少しだけ、白金の青年は碧い瞳を見開いた。

剣の柄を持って立ち上がり、ジェレミーは地面から刃を引き抜く。
「君に言われる筋合いはない。君がしたことを思い出させてやるよ。あんな事をしておいて忘れたなん……」
まるで呪いをかけるように呟きながら、ジェレミーが剣を構えた視線の先に、青い髪の少女が隠れるように立っているのが見えたのはその時だった。
ジェレミーの視線に気付いて、ユリウスと呼ばれた青年も振り返る。

訓練場の端にある木立にもたれかかるように、立っていたのはメイシンだった。
すでに蒼白な顔色で、離れた場所に立つ彼を見つめている。

見覚えのある背中。
白金に輝く髪からのぞく碧い瞳。

「………ユーリ……」

その名を呟いた途端、急激な記憶の波が彼女の脳裏に押し寄せてきた。
「佐守」よりももっと古い、ずっとずっと昔の記憶。
彼女がこの転生を繰り返すことになった、「きっかけ」を。

眩暈と吐き気に襲われ、ゆっくりと、木にもたれかかるようにして、メイシンはその場に崩れ落ちた。

「……メイシン!」
剣を放り投げて、ジェレミーが駆け寄る。

思い出したのか。
あの忌まわしい記憶を。
俺が一番、消してしまいたかった過去を。

ジェレミーに抱えられてうなだれる少女を呆然と見つめながら、胸の中で込み上げる感情を、青年は必死で堪えていた。


やっとでました。(笑)
ユリウスの初登場シーン。

遅くなってすいませんホントに。。
リアルタイムでちょっとまた色々ありました。orz
がしがしーと更新しますね。(笑)
もう表現とか氣にしないぞ。(爆)

台風の目がやっと現れたので(爆)、このまま一気にサクサク書きたいな~♪
というわけで次は。。。二人の過去のお話。

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