水晶のように輝く床を、一歩一歩踏みしめながら、白い神官衣に身を包んだ男が歩いていた。
「今度の人選で思うような結果が得られなければ、ここは放棄する」
先ほど上に言われた言葉を噛み締めるように、彼はまた一歩、足を出していた。
「闇」の波動から守る最前線としてここが選ばれたのは、今守ろうとしている惑星から一番近い周回軌道上にあるからだ。
星を見下ろし、漂う「浮遊島」。
だが、「火」を入れなければ、惑星の周りを漂うガラクタと同じ。
彼が神官としていることで、この島はかろうじて機能している。島の核となる神殿を構築し、そこに自身のエネルギーを繋いで、神殿からこの島全体に氣を渡らせている。いわゆる結界を張っている状態だ。
だが彼は術者であり、エネルギーそのものを媒介するものではない。
彼が降ろしたエネルギーを媒介する者。「巫女」として派遣されてきた女性たちが、そのエネルギーを何度となく受け、増幅するためにその命を削っていった。
波長が合わないのか、それとも、陣に耐えうるだけのエネルギーを持ち合わせていなかったのか。
多くの「巫女」が、その命を光に還元して消えていった。
まるで生贄のように。
一人ひとりに、情をかけていては神経が持たない。
男は次第に、心を閉ざすようになっていった。
祭壇が視界に入るようになると、男は足を止めた。
白い壇の前に、怯えるように立っている女性がいる。
最後の「巫女」
……いや。
巫女となるか、それとも生贄となるか。それは彼女の器にかかっている。
皮肉なほどに、冷めた考えしか浮かばない。
彼の心も、何度となく繰り返された「失敗」に疲弊していた。
女性の前に立つと、男は細い女性を見下ろした。
「……よろしく。君がここの支えになってくれることを祈るよ」
優しい言葉をかけると、少し安堵したようだった。
支えになろうとなるまいと、今回で最後だ。失敗すれば自分は任を解かれ、この仕事から解放される。
解放されたいのだろうか。
ふと、脳裏によぎった考えを、だが彼はすぐに振り払った。
「陣は明日から取り掛かる。今日はゆっくり休みなさい」
言い置いて、男は神殿の奥へと消えていった。
女性には、少し気がかりなことがあった。
何故これまで、この神殿は機能できなかったのか。
単にエネルギーを拡散させるだけではいけないのか。
神官が降ろした光を、自分が増幅し、必要な場所へ行き渡らせる。
そこに神官が陣を加えて、必要な結界を張り、光をより強固なものとし。。。
そこまで考えて、彼女の脳裏に疑問が浮かんだ。
彼が扱う陣とは、どのようなものなのか。
翌日から、神殿での「仕事」が始まった。
根源からの光を、神官が降ろし、巫女に渡して、拡散すると共に、守護する惑星へ繋いで、「足場」を固める。
ここまでなら、誰にでもできる。
問題は、この上に展開する「陣」に、彼女がどれだけ耐えられるかだ。
今日は、陣はやらない。
彼女がどれだけの器を持っているのか、それを知るための作業。
一通り作業が終わり、彼女がこの神殿の「支え」となったのを確認して、男は踵を返した。
立ち去ろうとする男の背中に、女性のか細い声が聞こえる。
「……ずっと、独りだったのですか」
思いがけない言葉に、男は足を止めた。
振り向いて見つめた女性の顔に、悲しみの感情が揺らぐ。
何を泣いている。
彼女の言葉に触発されて、これまで役目を果たせなかった巫女達の姿が、走馬灯のように脳裏を横切った。
「独りなら、どれだけ気楽だろうな」
小さく言い捨てて、男は神殿を後にした。
命乞いをされる前に、陣を発動してしまおうか。
過去にそういう女性は何人かいた。彼女もその類だろうと判断した。
彼女の、心を見透かすような瞳が、胸に心地悪かった。
チャクラ同士を繋ぎ合わせる作業に、「感覚の共有」はつきものだ。
だがここまで心に入り込まれるような感覚は初めてだった。
深入りすれば、自身の決意が揺らぎそうになる。
そうなる前に、終わらせてしまいたかった。
女性の心には、彼の閉ざした胸のうちが、垣間見えるようになっていた。
エネルギーを共有する作業は、「心」を共有する作業。
彼女は、感受性が豊かだったのだろう。
これまで彼に接してきた巫女以上に、彼が押し込めている感情を感知しているようだった。
一回で終わらせたかったんですが、長くなったんで切ります。
自分でも意外なほどに心理劇になってるよ。(笑)
続きは今日中。。。いや、明け方までにはアップしたいなぁ。。。
過去話はダラダラやってると体調がおかしくなるからね。。
さ、続き続き。
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