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【星紡夜話】カスタリアのほとり30・変容

「あ、おはようメイシン」

朝遅く、スイスブルーの瞳を眠たそうに擦りながらダイニングに入った少女は、キッチンで働く青年の姿を見て、全身を強張らせた。

金茶色の巻き毛、アクアマリンの瞳。白いエプロンをつけて朝食の準備をしている青年は、紛れもなく、いなくなったはずのジェレミーだった。

「遅いから、先に朝食作っておいたよ」

にっこり微笑むアクアマリンの瞳を見るうちに、少女の目は点になり、口はぽかん、と開いて、。。。そのうち、驚いて指差す手が、震え始めた。

「。。。どうしたの? メイシン?」
わなわなと震える少女に近づいて、背の高い彼は小柄な彼女を覗き込み、目の前で手をひらひらと振ってみた。
「メーイ?」
。。。相変わらず震えたまま、反応がない。

(。。。マズイか?)
(マズイみたい。。。)

彼の中で心話が交わされ、ジェレミーは背筋を伸ばしてため息をついた。
「分かったよ、もう。。。」

アクアマリンの瞳を閉じて深呼吸すると、彼の姿がふわり、と変わった。
金茶色の髪は濃くなり、全体からかもし出す雰囲気に、精悍さが加わる。
再び彼が目を開けたとき、それはパライバトルマリンの碧になっていた。

「これでいいか?」

目の前で姿を変えた彼を見たとき、少女は呼吸困難を起こした魚のようになっていた。
なんとなく事情が飲み込めたのか、やっと息を整え、メイシンはため息をついた。
「。。。。。。。。。あぅ」

「。。。なんで姿変えられるの?」
「家事をするときは、あっちの姿の方がはかどるんだ」
「。。。そういうことじゃなくて。。。」
「お前だって変えられるだろ?」
「わたし?」
スープをすくったスプーンをくわえたまま、少女はしばらく眉間にしわを寄せていたが、
「。。。。わかんない」
ボソリと呟いた。

「さっきのって何? 同時存在なの?」
「そう」
パンをちぎって口に運びながら、彼は短く答える。飲み込むと、説明が加わった。
「あれは俺の一部だから。一部を強調して、同時存在させることは出来る。比率は自分で変えられる」
「はー。。。」
なんとなく、説明を飲み込めていないような少女の顔をちらりと見て、彼は首を傾げた。
「お前出来ないの?」
「出来ない。。。。ていうか、考えたこともない。。。」

そうか、今までバラバラだったからな。

先日、彼女がやっと統合したばかりだと思い出して、彼はそれ以上口を開くのをやめた。

メイシンが朝食の皿を片付けている間、彼はソファに座ってギターを抱え、ポロリ、ポロリとつま弾いていた。
魂の比率など、もっと上の次元で決められているのだろう。
比率の割合は、多分交渉次第。
今の生で、自分はどの割合で生きていくべきか。

「佐守」の古い魂を昇華してくれた、彼女に報いる存在でありたい。

「何考えてんの?」
目を上げると、スイスブルーの瞳が青年を覗き込んでいた。皿洗いが終わったらしい。
「。。。お前、あの指輪どうした?」
全く違う話題を、彼は切り出した。
「指輪?」
視線を逸らして考えるふりをしていたが、少女には最初から見当がついてたらしい。
言いにくそうに、小さな声でボソリと呟いた。
「。。。。ごめん。踏んづけて壊した」
少女の懺悔を聞いた途端、彼は下を向いて小刻みに震え始めた。
恐る恐るそれを覗き込んだメイシンは、彼が怒りとは反対の感情で震えているのに気付いて、なんだかむず痒くなる。
「何が可笑しいんだよ。。。普通怒るんじゃないの? 悲しむとか。。」
彼女の問いには答えられないくらい、こみ上げる笑いを必死で押さえ込みながら、彼は過去、彼女の元へ通い詰めていた時のことを思い出していた。

いろんな物を贈ったような氣がするが、指輪が一番印象に残っていたか、そうか。

当時戦いに明け暮れていた彼女は、およそ執着するということがなかった。
日常の何に対しても興味を抱かず、年頃の女性らしい話などしている姿は、皆目見当もつかなかった。
たとえ破壊的な行為であっても、彼女が物に執着してくれたことが、彼には嬉しかったのだ。

やっと笑いの発作を腹に収めた彼は、少し涙目になった顔を上げて、楽しげに言った。
「プレゼント選びは結構骨が折れたぞ。お前、戦闘以外全く興味なかっただろ」
「そういう環境だったんだよ!」
分かってはいるが、彼は笑いが止められなかった。

。。。そうだな。今の方が、きっと指輪も似合うだろう。

雲ひとつない、夏の青空のような透き通った瞳、成層圏の青で染めたような、まっすぐな絹髪。

思わず見とれていると、少女は居心地悪そうにもじもじし始めた。
「今度は何? 何かついてる?」
「。。。。教えない」
何よそれ、教えなさいよ!と詰め寄る彼女を見上げて、彼の笑顔は少し重みを含んだ。
「じゃ、今度改めてな」
「なによそれ!」
ふくれる彼女のしぐさを愛らしく思いながら、彼は微笑を返した。

彼女が自分を受け入れてくれているのは、痛いほど良く分かる。
だがもう少し、時間が欲しかった。

彼女に伝えるための、ありったけの言葉を、用意する時間を。


上の人の姿って、どんな理由で変わるんだろうね?
はっきりわかって書いてるわけじゃないんです。受け取ったイメージとメッセージが頼り。
メイの場合は身体を総入れ替えしたので、色が全く変わっちゃいましたが。
佐守くんの見解は、上に書いたとおり。でもこれが全てって訳じゃないでしょう。
二人とも、もともと「過去の人」が昇華した存在なので、昔のトラウマが解消すれば姿が変わってもおかしくない訳で。
おもしろいなぁ。これからどうなんのかな?なんてのんきに考えながら書いてます。(笑)
さぁ、巻いてこ~☆

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