長い間、眠っていたような氣がする。
ヒーリングポッドから起き上がったメイシンは、軽く伸びをして辺りを見回した。
自分が起こされたということは、彼も回復しているはず。
視線をめぐらせて、それらしい人物を探してみたが、彼女の目には留まらなかった。
それどころか、気配すらない。
嫌な緊張感を胸に感じていると、大天使の声が耳に飛び込んできた。
「お目覚めですか?」
振り仰ぐとラファエルが立っている。
「佐守はどこ?」
「帰りましたよ」
スイスブルーの瞳が、点になった。あまりにも予想外の返答だったらしい。
「何で!?」
「彼が帰ると言ったんです」
ラファエルの言葉を聞くや否や、藍色の髪をなびかせて、メイシンはヒーリングポッドから飛び出した。
その華奢な肩を、大天使が捕まえる。
「もっと自分を大切になさい」
「なに? どういうこと」
自分の肩を捕まえる手に力が入るのを感じて、少女はその手を振り払うのをやめた。
「わたしは自分を大切にしてるし、佐守のことも大事なんだよ!」
「だからこそです」
エメラルドの静かな瞳が、少女を諭す。
「あなたが自分を犠牲にして、一番悲しむのは彼ですよ」
「分かってるそんなの!」
「石を分けると言ったのは何故ですか」
いつになく強い口調で、緑の大天使が問いかけた。
その問いの答えは、即座に喉へ上がってこない。
代わりにこぼれ落ちたのは、何故か涙だった。
海の底で静かにくすぶるような感情が、ポロリ、ポロリと涙を押し上げる。
「もう彼を悲しませてはいけない。もっと自分を大切になさい」
彼女が何故泣いているのか、この涙をあふれさせている根源の感情には、分かっているようだった。
気丈な姿を押しのけ、完全に涙の感情に支配された少女は、すがるものが欲しくて大天使にしがみついた。
今まで無意識に押さえ込んでいたのだろうか。今の今まで、自分でも気付かないほどに、彼女は気丈に振舞っていのだ。
その苦しくも切ない、そして不安を抱えた涙を、優しい大天使のローブに押し付けた。
ラファエルは、少女の細い身体を受け止める。
藍色の髪を撫でながら、癒しの大天使は静かに瞳を閉じた。
「大丈夫ですよ。。。マーシア」
あまり責めないでくれ。
原因を作ったのは俺なのだから。
少女の涙を感知したのか、静かな青年の声が、頭の中でこだました。
色とりどりの薔薇が咲き誇る庭。
時期を過ぎて落ちる花弁が、強い風に舞い上がる。
ここは確か、彼女が剣を鍛えていた場所。
荒涼として何もなかった広場が、一面の花畑になっている。
あまりの変わりように驚き、青年は碧い瞳を見張っていた。
いつになく強い風が、濃い茶の髪を揺らす。
花の中を歩き回り、透明に輝く珍しい薔薇の花弁を見つめていた時、彼女の切ない涙を、彼は感知した。
いつもそうだ。
いつもそうやって、俺は彼女を追い詰めていく。
碧色の揺れる瞳を伏せ、深いため息を、彼はついた。
。。。彼女がしてくれたことを、今度こそ忘れまい。
彼が自分の胸に言い聞かせたとき、涙を感知していた場所から、彼女の気配が消えた。
直後、背後に現れた気配に振り向いた途端、藍色の長い髪が胸に飛び込んできた。
彼女が起こした風が、落ちていた花弁を舞い上げる。
小柄な身体が長身にしがみつき、青年の胸に顔をすっぽりと埋める。
彼はしっかりと、その身体を受け止めていた。
そして彼女の涙した理由に、小さく謝った。
「。。。済まなかった」
「そうよ。先に帰るなんて酷いじゃない」
予想外の答えだった。いや、予想以上にはぐらかされた、と青年は思った。
まだ涙の跡が残る青い瞳で、少女は彼を見上げた。
黒に近い、ダークブラウンの髪。
あの魂と同じ、パライバトルマリンの瞳。
知性を感じさせる、落ち着いた風貌の青年。
佐守だ。
ほんとに佐守だ。
涙腺の緩んだ瞳に、また涙が溢れ出した。
嬉しさと共に、恥ずかしさもこみ上げてきて、少女は慌てて顔を拭う。
両手で涙を拭う少女を見ながら、青年は自分の胸に手を入れて、青い石を取り出した。
「ありがとう。返すよ」
彼の手の中で輝く、スイスブルートパーズの石に、少女は目を見張った。
それは、彼女が自身の胸から取り出した時のまま、完全な形をして光っている。
割らなかったんだ。
ラファエルが彼女をたしなめた理由が、メイシンにはようやく分かった。
でも。。。
戸惑い、青年を見上げるスイスブルーの瞳が、不安げに揺れているのを見て、青年は微笑んだ。
「傍にいてくれるんだろう?」
少女はすぐに頷いた。
彼は信じてくれたのだろうか。石がなくても、もう離れたりしないと。
もう二度と、彼を否定しないということを。
見上げる碧い瞳は、静かに微笑んでいる。
彼の手が、少女の白い手を取り、スイスブルーの石を握らせた。
本当にいいのかと、もう一度見上げる青い瞳に、青年は頷いた。
透き通る青い水が揺れるように光る、魂。
少女は両手で、それを胸に押し当て、本来の場所に収めた。
「。。。ごめんね」
「なんだ?」
「だから。。。」
言葉がもどかしかった。何を言っても、本当に伝えたいことが伝わらないような氣さえした。
だから大きく深呼吸すると、えい! と気合を入れて、少女は青年にもう一度抱きついた。
温かい、心臓の鼓動が聞こえる。
目を閉じると、静かに光る碧い石が見える。
背中と髪に、青年の温かい腕の感触を覚えた。
風が静かに、二人の周りを花弁で染めていく。
その温もりだけで、今は十分だった。
なんとなく、もっと客観的に書きたいと思って、今回は書いてみました。
自分のことだと思って書くと、どーしても表現しきれなくてね。恥ずかしい文章になってるなぁって思うのです。orz
どうやったら、時間軸完全無視の前後不明なお話を、。。。しかも感情体にモロダメージ受けることなく、自分が受け取ったイメージ通りの文章に仕上げるか。
アップした後も、書き足したりしてるんですよ。。はしょってるつもりないんですけどね。。。
文章をじっくり吟味する時間を、与えられないっていうか。早く書かないと追いつかない、追いつかないって。。。締め切りなんてない筈なのに。(笑)
それじゃいかんだろうと、今回は比較的、落ち着いて書きました。
いつかもっとしっかり加筆して、ひとつの作品としてまとめられたらいいなぁ。
あ、念のために言っておきますが、ジェレミーと佐守は同じ魂です。
同じ魂なんですよ~っ(笑)
。。。って本人が言ってるんだもん。。。( ̄▽ ̄;)
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