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【星紡夜話】カスタリアのほとり22・決意

「彼がどんな姿で現れようと、彼を受け入れてあげなさい」

退院前、ラファエルが言った言葉を、メイシンは反芻していた。
胸の中にある彼の石から、寂しさが伝わってくる。

どうしたら彼を癒せるのだろうか。

カスタリアの家に帰りついた後も、ずっとそればかり考えていた。

庭仕事をしながらも、そのことばかりを考えていると、不意に、彼女の背後で声がした。
「綺麗になりましたねぇ。。」
振り返ると、少女の馴染みの大天使が二人、いつの間にか立っている。
バラの蕾が開き始めた庭を眺めながら、癒しの大天使が呟いたのだった。

メイシンは首をかしげた。
「。。。呼んだっけ?」
「呼ばれたと思ったんですけどね」
にっこりと笑みを浮かべながら、ラファエルは答える。
隣に立つミカエルも笑っていた。自分の胸に聞いてみろ、と言わんばかりに。

少女は、ため息をついた。
見透かされてるなぁ。。。と、自嘲しつつ。
手元の剪定ばさみを見つめながら、おもむろに呟く。
「佐守がね。。。ずっと自分を責めてるの」

彼女はずっと、胸の中にいる「彼」に語りかけていた。
過去に彼の申し出を断ったこと。それをずっと謝り続けた。
だが、そのたびに彼は言うのだ。

(それは俺のせい。俺がしてきたことを思えば、お前が俺を否定するのは当然だから)

彼が自分に何をしたのか。彼女には、彼にひどい仕打ちをされた記憶はなかった。
なのに、何を責めるというのか。
氣にしていないことを謝られ、落ち込まれる日々。

彼はわたしを愛してくれるのに、わたしの愛を受け取ってくれない。

「愛してあげなさい」
ラファエルの声で、少女は我に返った。
「彼があなたにそうしたように」
「過去を切ってやればいい。お前が切ってやれ。浄化を進めていけば、彼も変わっていくだろう」
ミカエルの言葉が後に続いた。

でも、という言葉を、メイシンは飲み込んだ。
本人が決意しなければ、変わることなど出来ない。
それは自分が良く知っていた。
ならば、自分には一体何ができるのか。
スイスブルーの瞳を閉じて、静かに、胸の中の藍玉へと思いを馳せる。

彼がわたしにしてくれたこと。

次にその目を開けたとき、スイスブルートパーズの瞳には、決意の色が満ちていた。

「わたし、佐守の守護天使になる」

ずっと愛を受け取るばかりだったから。
今度はわたしが、彼を守る。彼がそうしてくれたように。

ラファエルは微笑をたたえて頷き、ミカエルはニヤリと笑った。

ふと思いついたように、少女は金髪の大天使を見上げた。
「あ、そうだ。この前の話なんだけど。。。」
「わかった。断っておく」
メイシンが何も言わないうちに、ミカエルは返した。
訓練用の広場をつぶして、庭にしいてるのを見れば分かる。
彼女にはもう、戦うことは必要ないのだろう。

大天使たちが帰った後も、メイシンはずっと、彼に思いを馳せ続けた。
胸の中の、彼の顔を覗き込んでは、沈んだ顔を見つめる日々。
ある日、本体(ひつき)の情報からヒントを得た。

「ああいうのは軍事に見せかけてるけど、結局は研究目的」

その一言が、彼女の脳裏に引っかかった。
研究目的?

自分がオペされているときの記憶は、実は彼女には全くなかった。
彼なら、知っているはず。

本当の自分を知るための旅。
彼女がそれを受け入れることで、彼が癒されるのなら、それでいいと思う。

知らなくてもいいかと思っていたけど、そういうわけにも行かないみたいだ。

メイシンは、彼女の中で光るピーコックグリーンの石の記憶に、アクセスすることを決意した。

それは、佐守の過去を遡り、垣間見る旅。


佐守の過去を覗いてもいいか?て、ラファ先生に聞いたら、OKもらえたんで、書くことにしました。
魂の核がメイシンの中にあるので、それが可能になったようです。

というわけで、次回から佐守の過去編です。

心理描写が主で、あんまり血なまぐさくないはずなので。。
ひとつの物語として読んでいただけたらなぁ、と思います☆

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