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【星紡夜話】カスタリアのほとり20・待帰

自分の事情が一段落付くと、メイシンはヒーリングブースをぐるりと見回した。
「。。。ジェイは?」
傍にいたはずの、アクアマリンの青年が見当たらない。
癒しの大天使の表情が、少し陰った。
エメラルドの瞳を閉じて、静かに首を振る。

どういうこと?

「今はまだ、彼の存在を掴めません。どこにもね」

少女の頭から、血の気が引いた。
。。。どういうこと?

青ざめた顔の少女を見やり、大天使は医療スタッフに目配せをした。
白衣の男性が、二人がかりで少女を抱えあげる。先ほどまで入っていたヒーリングポッドの中へ寝かせようとするのが分かって、メイシンは大声を上げた。
「ちょっと待って! どういうこと!?」
「あなたはまだ動いてはいけない。統合が完全に終わるまで、そこで休んでいなさい」
「ラファエル!」
「誤解のないように言っておきますが、彼は消滅したわけではありません。彼もあなたと同じなのですよ」
「天使の説明はまどろっこしいんだよ!!」

スイスブルーの瞳の中に、琥珀色のエネルギーが一瞬閃いた。
それを見て取った大天使は、間を置くように小さくため息をついてから、少女の瞳を見据えた。
「彼を信じてあげなさい。待っていてあげなさい。今のあなたの体では、何も出来ずに共倒れになる」

怒りの表情が、悔しそうな、歯がゆそうな顔に変化するのを見て取ると、ラファエルは彼女をポッドに寝かせるため手を貸した。
先ほどとは打って変わって、意気消沈した少女の顔を、エメラルドの瞳が覗き込んだ。

「回復したら、起こしてあげますよ。その後は、あなたの自由です」

いつもの優しい微笑をたたえて、大天使はポッドの蓋を閉じた。

。。。わたしのせいだ。

癒しの光の中にたゆたいながら、少女は静かに涙した。

わたしが彼を否定したから。

こんなに涙が出るものなのだろうか。今まで流したことのない涙に、メイシンは戸惑った。

。。。そうか、これはマーシアの。。

自分の中で、自分と一緒に涙する自分を感じ取った。

。。マーシア。泣いてばかりいないで。一緒に探して。

自分を励ましながら、メイシンは「彼」に意識を向け続けた。
ヒーリングポッドの中から、祈るように呼びかけ続ける。

氣が付くと、自分の家に戻ってきていた。
部屋を見渡すと、男性が一人いる。
ダークブラウンの髪、ピーコックグリーンの瞳。
思慮深げな横顔。

。。。佐守。

メイシンは思わず走り寄った。
彼は微笑まない。
今までどうしていたのか聞きたかった。
だが、彼は答えない。
代わりに、こんなことを言われた。
「何か欲しいものがあるか」と。
メイシンは少し考えて、
「別にいらない。佐守がここにいて、わたしを愛してくれたら、それで十分だから」
すると彼は、急に泣き出した。
号泣を通り越し、まるで慟哭。

彼女は我に返った。
今しがた見ていた映像は、光の中に消え去っていた。
自分はまだ、ヒーリングポッドの中にいるのだと気付くのに、軽く10秒はかかった。
彼に焦点を合わせることに疲れ果て、夢を見たようだった。

否、今のは確かに、佐守だった。
あんな風に泣く姿は、今まで見たことはないけれど。

結局、彼女は一週間ほど「入院」していた。
退院後、カスタリアの家に戻ったメイシンは、誰もいない家に一人たたずんでいた。

泉にはマーシアの姿はなく、家には優しく微笑む青年の姿もない。
でも、いなくなったわけではない。
分かっていても、寂しさがこみ上げてきた。

やがて彼女は、剣を鍛えた広場に、バラを植え始めた。
一本ずつ、成長した姿を思いながら。
家から続く入り口には、紅いバラのアーチ。
庭の左手には東屋。つるバラを這わせ、花を眺めながらお茶を飲めるように。
庭の右手には、色とりどりのバラ園。バラに取り囲まれた中央に、ガセボ風のパビリオン。ここで瞑想が出来るように。。
荒涼としていた広場には芝生が敷き詰められ、花の苗が植えられていった。

いつか花咲き、美しく香り漂う、それを二人で愛でる日を夢見て。


すいませんねぇ。。大天使だろーがマスターだろーが、平気でタンカ切っちゃうんですねぇ。。うちの琥珀の子は。。orz

いや。。なんかね。統合して家に帰ったら、広場を庭にしちゃったんですよ、彼女。
いや~なんか。。。庭造りの部分、書きながら涙出てきた。なんでや。(ノ◇≦。)

この辺り、時系列がぐちゃぐちゃで、まとめるのに一苦労しました。。
過去も未来も現在も、一緒に降ろすのはやめてくれー!!(ノ◇≦。)

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